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ドイツ後半のパワフルな攻め“すごい”ビアホフの同点ヘッド

 日本のユース(U―19)は、世界へのキップを手にしたが、グループリーグでも決勝でも韓国に敗れたのは、いささか気になる。韓国側が日本に対する戦い方を知っていて、何十年来、繰り返しているのに対して、日本が大幅に技術や戦術の進歩を遂げた今でも、こういう相手からゴールをもぎとることに結びついていないからだ。

 さて、クープ・ドゥ・モンドの旅は、前号に続いてのドイツ対ユーゴスラビアの後半、ドイツの猛反撃と彼らの得点をもぎとる力に驚くところ…。



マテウス登場にどよめく



 6月21日、ランスのフェリ・ボラール競技場。後半に入ってスタンドは、まずマテウスの登場にどよめく。

 1961年3月21日生まれの37歳。82年のスペイン大会の1次リーグ対チリ戦、ブライトナーとの交代で後半に出場して以来、5度目のワールドカップ。2度の準優勝のあと90 年イタリア大会では主将で優勝。94年は、それまでのMFからリベロに転じて準々決勝まで進んだ、ベッケンバウアーに次ぐドイツのワールドスター。96年の欧州選手権のときは代表から外れていたが、そのときのリベロのザマーが、故障してこの大会に出られなくなり、フォクツ監督は再びベテランを代表に加えたのだった。

 ハーマンに代わってMF右寄りの位置に入った、マテウスの特有のボールの持ち方が懐かしい。

 監督の合図を反映して、ドイツはチーム全体が前がかりとなる。リベロのトーンも、マテウスとパスをかわして前へ出てくる場面が増える。そうなれば、1―0とリードしているユーゴスラビアにとっては、カウンター成功のチャンスもある。なにしろ彼らは、ボールを持たせれば1対1ではそう簡単に取られないのだから。

 彼らの個人技の優位が生きたのは54分だった。ユーゴの攻めを防いで反撃にでようとしたドイツの左サイド、ツィーゲのラインぞいのドリブルが大きくなって,無理な姿勢から中央へ横パスを送ったのをハーフウェー・ラインでヨカノビッチが奪い、ドリブルに次ぐワンツーパスで一気にエリア内に入り、相手DFともつれながらボールを右へパス、空白の地帯へ走り込んだコバチェビッチがシュートし、GKケプケがファンブルしたのをストイコビッチが蹴り込んだ。

 ケプケのミスには違いないが、メラーをマークする役目のヨカノビッチのボールを奪ってからのドリブルの巧さ、速さが、攻めを意識して前へ出ようとするドイツDF陣を切り裂いたのだった。

 スタンドのドイツ側は静まり、ユーゴ人は叫ぶ。彼らは「アウフ・ヴィーダー・ゼーン」とドイツ語の「さようなら」を合唱し、ドイツ人に「もう帰りなさい」と告げる。

 しかしドイツは、ひるまない。メラーをキルステンに代え、さらに調子の出ないツィーゲの交代にタルナートを送り込む。

 前でボールを奪い、チャンスが増え始めるドイツ、下がりめに位置をとるクリンスマンのプレーメークは、ストイコビッチの華麗さには遠いが、その大きな動きと気迫はスタンドにも伝わってくる。そして、オヤッと思うプレーも生まれてくる。マテウスとトーンとのパス交換からトーンがノーマークとなって、パスを前へ。浮かせるのかと思ったらビアホフの足元へ。それをビアホフがダイレクトで右へ送り、キルステンがシュートした。外れはしたが、このシュートからドイツの気迫と攻撃がさらに強まり、チャンスが増えた。そして73分にドイツが1ゴール。トーンに対するファウルで中央から左寄り、25メートルでのFKをタルナートが直接狙った。7〜8メートルも助走しての、得意の左足でたたいたボールはミハイロビッチの足に当たって、GKの逆を突いてゴールに飛び込んだ。

 強烈なシュートでもぎとったゴールで、スタンドのサポーターのボルテージは一気に高まる。左CKからビアホフのヘディングをGKクラリが辛うじて手に当てて防ぐ。

 タルナートの左からのクロスの威力は、さらに右のCKを作りだし、今度はビアホフが同点ゴールを決めた。

 トーンの蹴ったハイボールに対して、ニアのクリンスマンが早めに、高く雄大なジャンプ。彼につられてユーゴDFのタイミングが狂うなかで、ビアホフがベストのタイミングでジャンプし、191センチの長身を生かしてボールを頭でたたき落とすようにしてGKの足元を抜いた。2―2。息つく間もないドイツの猛反撃は2点のリードを撤回してしまった。

 ユーゴも攻撃に出る。互いの意地がぶつかりあい、ドイツの長髪のドリブラー、イエレミースが倒され激昂し、それをフォクツ監督がラインを越えてピッチに入ってなだめる一幕もあったが、自陣ゴール前でシュートを体に受けて倒れ、担架でクリンスマンが運び出されたところからゲームは終息に近づいた。

 強烈なFKを胸に受けたクリンスマン。壁に入って相手の強いキックに対してひるむことなくジャンプし、体で防いだ強い気持ちが後半のドイツお意志を表していた。

 前半はユーゴの技術に魅せられ、後半はドイツの気迫に圧倒された…


…わたしはメモの最後にこう記した。

(サッカーマガジン 1998年12/2号より)

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