賀川サッカーライブラリー Home > Stories > >デニウソンの“コンニャク”ドリブル ブラジル―ノルウェー
デニウソンの“コンニャク”ドリブル ブラジル―ノルウェー
ラウル、ロベカル、フェリッピ
長生きはしたいもの…12月1日のトヨタカップはまさに、そう実感する面白さだった。1点を争う試合の流れのエキサイティングはいうまでもなく、個々のスターの高度なプレーを堪能できた上に、ロベルト・カルロス(レアル・マドリッド)という“当代きって”の左サイドと、彼とは異質で4歳若いフェリッピ(バスコ・ダ・ガマ)という左サイドの才能を、大舞台で見られることができたのだから。
それにしても、決勝ゴールをつかんだラウル(レアル・マドリッド)のプレー、21歳の伸び盛りのストライカーが、ゴールに対する得意の角度、得意の“場”に入ったときの強さを、改めて知った。同時にそのラウルへ一発必中のパスを出したシードルフ、仲間の最も得意なプレーを得意な場所で発揮させるチームワークの妙といえた。それは、ペルージャで開花した中田の得点力と、彼の得意なシュートの場へ、ボールを送る仲間…と通じるものがある。
さて、表題のフランス98の話は、そのロベルト・カルロスをはじめとするブラジルに、ノルウェーが挑むグループリーグA組の第3戦。
78分、デニウソンのクロスをノーマークのベベットがヘディングで決めて、ブラジルが1―0とした。
この日のブラジルはDFのアウダイールを休ませ、ジュニオール・バイアーノとゴンサウベスをセンターバックに置き、右はカフー、左はロベルト・カルロスで変わらず、MFはセザール・サンパイオに代わって、レオナルドがドゥンガとともに守備的な位置に入り、リバウドとデニウソンがその前、そしてFWはロナウドとベベットのコンビだった。
大型選手の2段ディフェンス
ノルウェーは、このブラジルに対して当然のことながら、守りを厚くしてカウンターを狙う形を取り、ブラジルがキープすると、4人の最終DFラインの前にもう1列の5人が守備線を作り、2段構えの布陣を敷いた。
CBのエッゲンは192センチ、ヨーンセンは190センチと長身。右にはベルグ(184)、左にはビヨルンビー(181)、MFはレクダル(187)、リセト(189)、H・フロ(187)、ストラン(179)、レオナルドセン(177)、そして1トップのT・A・フロが193センチ、これにGKグロドス(188)を加えた11人の身長は、△190以上3人 △186以上4人 △180以上2人 △177以上2人。
長身が多いのはヘディングの空中戦に有利というだけでなく、個々のリーチの大きさにつながる。そうした大型選手が2段構えで形成する守りに対し、ブラジルは見事な攻撃展開で攻め込みながら得点できなかった。
後半は形勢が変わってきた。
それは、一つにはノルウェーが攻勢に出たこともあった。A組のもう一つの試合で、モロッコが前半を終えて1―0とスコットランドをリードし、後半開始後すぐに2点目を加えていた。ノルウェーが決勝トーナメントへ進むためには勝たなければならない。
68分にソルスチェアーを投入した。174センチのマンチェスター・ユナイテッドのストライカー、73分に彼が3人を引きつけてT・A・フロにパス、ノーマーク・シュートのチャンスを作る(シュートは左へ)。
試合は面白くなる、と同時にブラジルのチャンスも増える。75分にロナウドのパスにベベットが飛び込み、スタンドをどよめかす。
倒れてもボールは足首に
そして78分にブラジルの先制点。デニウソンがゴール前30メートルやや左寄りからドリブルをはじめ、DFエッゲンをかわしたときトリッピングされ、エリアすぐ外で倒れた。笛は鳴らず、デニウソンを起き上がり、左足首に抱え込んでいたボールをドリブル、追走するベルグを尻目に、左足でゴールマウスヘライナーのクロスを送ると、そこにはベベットが待ち受け、ノーマークのヘディングでたたき込んだ。
デニウソン特有の“ぐにゃぐにゃ”したドリブルでいったん倒されても、足首からボールを離さず、相手のDFが一瞬立ち止まって見つめてしまったときに、立ち上がってドリブルしたところが、まことに彼らしいプレーだった。
そのデニウソンへボールが渡る前、左タッチのスローインからブラジルMFがボールを右へ回し、その右のレオナルドが左のドゥンガに送ってきたときは、前半には見事に狭い間隔を保っていたMFラインがバラバラに広がり、そのスペースに立つデニウソンはまったくフリーになっていた。そこへ送ったドゥンガのパスは正確だがスローだったから、ノルウェー側の反応もまた遅く、デニウソンがターンをしドリブルし始めるまで自由だった。
狭い地域の多数防御を破る一つの手段に、タイミングをずらせる(遅らせる)ことがあるけれど、“コンニャク”デニウソンを働かせるまでの、ブラジル側のボールの動かし方は、まことに心憎い。
勝負あった…とカナリアのサポーターはもちろん、観客の多くは思ったに違いない。しかしバイキングたちはあきらめなかった。
猛攻撃が始まった。
(サッカーマガジン 1999年1/6号より)