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フランス・ジャケ監督の深謀 第3戦は控えがズラリ

 新年おめでとう。今年もよろしくお願いします。私の75回目の正月にも、こうして誌上で皆さんとサッカーのお話ができるのは、まことに幸いなことと感謝しています。

 この連載は98年フランス・ワールドカップを私の取材の足取りに沿って試合を、人を、プレーを、そして、その舞台となった町や土地などを語るものです。

 私のホームページKagawa Soccer Libraryにも、この連載についての多くの感想をいただいていますが、「1974年の“ベルティ・フォクツはいい男”以来」という20余年にわたる読者や「プレーをミクロの視点で見ているのに興味」、「フランス大会からサッカーにのめり込んだ」という若い方など…いまさらながら、この雑誌の読者の層の広さを知った次第です。

 さて今回は、グループリーグC組第3戦、上位の狙うフランスの周到な戦いぶりです。



ドゥサイイーがキャプテンに



 キャプテンマークを付けていたのは、ブランではなくドゥサイイーだった。

 98年6月24日午後4時、わたしはマルセイユのベロドローム・スタジアムのプレスセンターにいた。

 6月10日に始まったフランス・ワールドカップは22日までにグループリーグ各第2戦までが終わり、23日から第3戦に入って、まずA組のブラジル、ノルウェー、B組のイタリア、チリの上位各2チームが決まり、この日はC組の、△フランス(2勝)対デンマーク(1勝1分け)△南アフリカ(1分け1敗)対サウジアラビア(2敗)とD組の△ナイジェリア(2勝)対パラグアイ(2分け)△スペイン(1分け1敗)対ブルガリア(1分け1敗)が予定されていた。

 そのC組のフランス―デンマーク、リヨンのジェルラン・スタジアムからの中継をプレスセンターのテレビ画面が映し出し、フランスのメンバーを紹介していた。しかし、ラインアップには主将のブランも、左DFのリザラズも右のチュランもおらず、MFのデシャンの姿もなかった。

 攻撃の軸のジダンは第2戦対サウジアラビアで退場処分、しかも2試合の出場停止で欠くことになるが、彼がいないチームからジャケ監督は、さらに警告1回の3人を休ませていた。



カードとの戦い



 今度の大会はこれまでと違って、グループリーグを通じてイエローカード1回だけの選手は、決勝トーナメントには持ち越さない。しかし、累積2枚で次の試合に出られない規則は、そのまま生きている。このため、黄色1枚のブラン、リザラズ、デシャンをベンチに置いたのだった。

 すでに2勝していて、引き分けでも“トップ当選”となるフランスの余裕なのだろうが、おかげで私たちは、カランブー、ルブフ、ドゥサイイー、カンデラの4FB、ビエイラとプティのボランチ、さらに右に開くピレスとプレーメーク役のジョルカエフ、左のディオメド。そしてトップのトレゼゲという組み合わせを見ることになった。

 ついでながらプティもすでに警告1回だが、彼までを外さないのは、ジャケ監督の計算なのだろう。

 一方、デンマークはすでに2人の退場者を出し、5人が警告1回を受けているが、その5人とも起用している。リヨンの西北531キロにあるボルドーで同じ時刻の試合で、もし南アフリカがサウジに点差を広げて勝てば…と考えれば、彼らは悪くても引き分けておきたいはずだった。



フランスの速さとテクニック



 試合は、はじめの4分間に2本ずつのシュートが飛び、いきなりパンチ応酬…の形となった。

 驚いたのはフランスのパス攻撃の見事なこと。ジダン、デシャンという中盤の攻めと守りのキーマンがいなくても、これだけボールをスムーズに動かせるのか、と感心する。

 ジダンのような独特の“間”の取れる選手の代わりはいないけれど、大きくてスピーディーな展開はまことに壮観。左から中央へ斜行したビエイラが、ジョルカエフのヒールパスを受けて、エリア右からシュートしたプレーは、GKシュマイケルに防がれはしたが、“ワザあり”といったところ。

 スタンドの上から、この大きくスピーディーな展開を見れば面白いだろうと、現場にいないのを悔やむほどだ。

 12分に生まれたフランスの先制ゴールはPK。エリア内でトレゼゲが相手DFのヒョイにトリッピングされたものだが、彼にパスを出したのは左DFのカンデラ。相手のヨルゲンセンがスリップしたために手に入れたボールをドリブルし、エリア内のスペースにパスを流し込んだものだった。

 カンデラがタテに出てから、中へ斜めに方向を変えたドリブルと、そのドリブルから真っ直ぐに出したパスは、さすがにASローマ、セリエAの選手の技術だった。

 そのスペースへ走り込んで、ボールをトラップしたトレゼゲに対するデンマークのヒョイのタックルは、ボールに足を出したはずが、そこにはボールはなく、トレゼゲの足があった。つまり、トレゼゲの速さが勝っていたことになる。

 PKのキッカーはジョルカエフ。左下へ決めたが、この経緯がまた面白かった。


(サッカーマガジン 1999年1/27号より)

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