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フランスが3戦3勝20人が大会の経験積む

ペナルティー・キックの攻防



 高校サッカーは実力伯仲によってPK戦で決着をつける試合が多くなっている。普通に考えればキッカーが有利なはずなのに、実際には心理的な要素がからむから、結果は必ずしもそうではない。ワールドカップで名選手がキックに失敗するのを見ることもあり、それがまたサッカーの面白いところだが、記者席から見ていて、あるいはテレビを見ながら、このキッカーは失敗しそうだなと予見できる場合がある。

 そのひとつはキッカーの踏み込みに入る角度(助走の角度)の浅いときだ。1月5日のPK戦でも3人がGKに止められたが、そのうち2人は極めて浅い角度でキックに入った。浅い角度が何故、失敗しやすいかについては別の機会に譲るが、2人のキッカーは、おそらく自分の得意な角度ではなかったと思う。



シュマイケルは手に当てたが…



 さて、フランス98の旅は前号に続いて、グループリーグC組の第3戦、フランス対デンマーク。ジャケ監督が主軸を引っ込め、控えを総動員してのメンバー構成で勝ったのだが、その先制ゴールがPK。世界一といわれるデンマークのGKピーター・シュマイケルを、ジョルカエフが破る前半12分の場面から…。


 キックの前に、ボールの位置が違うとシュマイケルが注文をつけ、レフェリーの指示で修正する、というやりとりがあったのち、ジョルカエフが右足で左ポスト側に決めた。右足インサイドでたたいたボールは、サイドネットへ飛ぶ原則通りだった。方向を読んだシュマイケルは伸ばした右手に当てていたから、彼には残念な結果だったろう。

 私にはテレビのリプレーのスローモーションで、彼がライン上からの横へのジャンプでなく、キックの瞬間に右足を一歩前へ出してから、ジャンプしたのが気になった。92年の欧州選手権準決勝のPK戦で、彼はオランダのファンバステンのシュートを防いで優勝への道を開いたのだが、そのとき、彼はゴールライン上からジャンプしたと見た記憶があるからだ。

 一歩前に踏み出したため、ボールにタッチした右手は、シュマイケル特有の指先にまで力がみなぎっている、という形にならなかったのだろうか…。



ラウドルップ兄の自作自演



 欠場のジダンに代わってプレーメーク役のジョルカエフのPK成功で、フランスは勢いづき、攻撃、また攻撃と繰り返す。デンマークは一度だけ、見事なカウンター攻撃をラウドルップ兄弟とヨルゲンセンの3人で見せたが、ブライアン・ラウドルップのシュートはバルテズに防がれた。

 ブランやキャプテンのデシャンといった守りの軸を外していても、デンマークの攻めをほぼパーフェクトに抑えていたフランスだが、ほんの一瞬のスキから42分に同点ゴールを奪われるのだから、サッカーは怖い。
それもPKで…。

 発端は、フランスのペナルティー・エリアのすぐ外でのMFビエイラの反則だった。DFがヘディングして高く上がったボールを、ミカエル・ラウドルップがジャンプしようとしたのを妨害したのだった。

 場所からみて、ゴールを直接狙える位置だったが、落下したボールを取ったプティからボールを受け取ったミカエルは、さり気なくボールを地面に置くと、ポンという感じで右足でボールを蹴ってペナルティー・エリア内へ流し込んだ。右から中へヨルゲンセンが走り込み、これを動き出しの遅れたカンデラが腕で妨害し、両者が倒れると、主審は笛を吹き、ペナルティー・スポットを指した。

 ミカエルがボールを蹴った瞬間を見ていた選手は何人いたか…。フランスDF陣はラウドルップ兄に老獪さにしてやられた格好だ。

 ボールを置く前の彼の動きは小さかったから、右に開いていたヨルゲンセンと、いわゆるアイコンタクトがあったのかどうか。それがなくても、ラウドルップ兄の気配で知るのが仲間というものだが…。

 PKのキッカーは、もちろんミカエル。右足で、右サイドネットへ正確に蹴り込んだ。GK バルテズは左へ(キッカーから見て)逆方向に跳んだが、ミカエルは蹴る前にチラリと視線を動かした(リプレーで見えた)から、バルテズはそれに引っ掛かったのかもしれない。


 1対1になった後半は少し激しくなったが、今度のフランス代表は体格の面でも激しさでも北欧人に負けることはない。前半と同じように圧迫を続け、56分にプティのシュートで2―1とした。

 それまでに、ジョルカエフやトレゼゲの近距離のシュートを防いだシュマイケルも、密集をすり抜けてきたボールを取ることはできなかった。

 ボールの出どころを見ていないはずの彼が、左足をボールに当てたのはさすがといえたが、ゴールに向かうのを防げなかった。

 フランスは、その後も攻める手を緩めなかった。GKがシュマイケルでなければ追加点も生まれただろう。

 この試合にも14人を投入したジャケ監督は、登録22人のうち、GKの控え以外の20人にこの大会での経験を積ませる、という大胆な戦略を進めながら、3勝3勝という申し分ない結果を得た。ブラジルが3試合を戦ったのは15人だったが…。


(サッカーマガジン 1999年2/3号より)

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