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防いで、奪って一気に攻撃イタリア・カウンターの妙

ビエリの突進ゴール



…イタリアにとって申し分のない展開になりましたね。

「やはり守りはしっかりしているね。ビエリの早い時間の得点もすばらしかった」

…ノルウェーの選手たちは暑さが響いているのかな。

「ブラジル戦のときよりも、なんだか動きが鈍い感じもある。暑さもあるだろうし、ブラジルに勝ってグループリーグを突破したことで、気持ちがひとつヤマを越えたのかもしれないね」


 ハーフタイムの記者席で仲間と言葉を交わしながら、モニターテレビでビエリのゴールのリピートを待っていた。やがて映し出されたのは、ゴール裏のスタンドの高い位置からのものと、ゴール後方の低い位置、さらに記者席側スタンドから…3つの角度の画面のおかげで、ビエリが後方からのグラウンダーのパスを疾走しながら左足でまずタッチし、2度目のタッチのあと右足でシュートしたことが分かったが、大きく力強いフォームのランと2タッチ目からシュートに移る動作のスロービデオは、このプレーヤーのストライカーの資質を見事に伝えていた。

 98年6月27日、晴天のマルセイユで午後4時半から始まった試合は、ロスタイムを含めた48分間の前半を終わってイタリアが1―0でノルウェーをリードし、ベスト8へのステップに足を掛けていた。



193センチ対176センチ



 ノルウェーのキックオフで始まった試合は、まず北欧の巨人たちのハイボールの攻撃をイタリアが防ぐところから始まった。

 例によってノルウェーは4人のDFラインの前に5人のMFを置き、T・A・フロのワントップという配置。この日のわたしたち日本人記者の席は、この二つのラインを斜め後方から見ることになる。

 この配置につくプレーヤーの身長は△190センチ以上が3人△185―189が4人△181―184が2人△180以下が1人(開始14分で177のレオナルドセンが186のストランドに代わっている)。

 攻撃の中心は193センチのT・A・フロで、彼のポストプレーあるいはオープンスペースへの動きからチャンスを生む。

 これに対してイタリアは、180以上はDFではマルディーニ(185)、ベルゴミ(185)の両ベテランと、MFでヘディングの強いディノ・バッジオ(188)、そしてビエリ(185)のわずか4人…身長差からくるヘディングの不利をどう補うのか、またヘディングだけではなく、その大きな体と長いリーチを生かすT・A・フロのキープ、反転してのクロスなどのフットワークをどのように抑えるかが、見どころの一つだった。

 そのT・A・フロをマークしたのは4番をつけたカンナバーロ。前半2分に左スローインからT・A・フロがボールを受けたときに妨害して、T・A・フロのミスを誘いゴールキックとしたのを手始めに、17センチの身長差のある超大型FWを徹底的にマークした。その体の寄せ方のうまさ、いったん寄せた体を相手から離さない粘着プレーは、さすがにディフェンスに伝統のあるイタリアの代表と思わせた。

 この日最初のゴールマウスへのハイボールはGKパリウカが取ったが、このときにもカンナバーロは2人のノルウェーの長身の間で果敢に競りかけていた。ボールはたとえ取れなくても、相手にベストのプレーをさせない意欲があり、T・A・フロとの3回目の1対1(7分)のときには、小柄な4番の巧みな体の入れ方に、T・A・フロが手で押し倒してファウルを取られてしまった。



反撃の口火を切ったカンナバーロのタックル



 前半18分のイタリアの得点は、彼らの堅い守備がノルウェーの再三の攻めを防いだカウンター攻撃から生まれた。

 13分にノルウェーのH・フロのシュートが飛び、パリウカが防いだが、この日、初めてといっていいT・A・フロとのコンビによるシュートで、ノルウェー側が勢いづく。左からのFKと右CKが続き、珍しくマルディーニにパスミスが出る。

 16分にはノルウェーが「放り込み」のあとのクリアを拾って、こんどはハイボールでなく、右からT・A・フロの足元へパス。それを受けて突破しようとしたのをカンナバーロが見事に止める。そのリバウンドを拾ったのがディビアジオ。この日始めから、いい判断といいパスを見せていた彼は、すばやくドリブルし、ハーフウェー・ラインの手前から中央右よりの前方にいたビエリにパスを送った。スタートしたビエリはすばやくコントロールして、一気にエリア内に入ってゴールから9メートル、右よりから右足で決めた。

 長い疾走のあと、得意の左ではないが正確な右足のシュートをゴール左下へ送り込むストライカーの能力を、見事に生かしたディビアジオの1本のパスを出すタイミング、その前のドリブルのうまさは芸術的ともいえたが、その背景にイタリアの守りの堅さがあったのはいうまでもない。特に勢いづいたノルウェーがそれまでより攻めに人数をかけ(このときは5人)中盤が手薄となり、最終ラインの4人の間にもスキ間が生まれたときに仕掛けた速攻は、まさにカウンターの極致。防いでおいて、ここというときに、そこにいるすべてが攻めの気配を知る。その素晴らしさを、わたしは82年優勝チームと重ねていた。

(サッカーマガジン 1999年3/31号より)

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