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デルピエロの攻撃セリエAで磨かれた練達のプレー

ロングボールのトラッピング



 イタリアのキックオフで始まった後半、46分にイタリアが最初にシュート。蹴ったのはデルピエロだった。

 右DFのコスタクルタからのロングパスをエリア左隅へ走り込んで受けて、相手DFを中へ外して右足でシュートした。ボールはGKグロダスの正面に飛んでキャッチされたが、落下するボールを右足のタッチで勢いを殺したトラッピングのうまさに思わず声が出る。

 アレッサンドロ・デルピエロは、96年のトヨタカップでユベントスがリバープレート(アルゼンチン)を破ったとき、唯一のゴールを決め、日本のファンにもなじみの選手。このトヨタカップでは、ボクシッチ(クロアチア)の突破が目立ったが、結局、得点はCKからジダンのヘディングが流れ、左からのデルピエロの右足でもたらされた。

 この日のノルウェー戦で彼は前半の41分とロスタイムの47分に、2度のチャンスをつかんでシュートしている。2本ともGKに止められたが、彼のテクニックはノルウェーの巨漢DFを悩ました。



突破のタイミング



 デルピエロは49分に、ビエリに短いパスを送ってシュートチャンスを生み(ビエリのシュートはDFに当たる)、59分には左サイドのスローイングからシュート(GK正面)するなど攻撃をリードした。ペナルティー・エリア左隅からのシュートに定評のある彼は、左サイドで主にプレーするが、そのキープと突破はまことに楽しい。

 Jリーグでは、サイドから攻めてゆくときでも、FWの選手が簡単にボールを奪われて、チャンスが一気にピンチに変わることがあるが、デルピエロには相手が迫り、やっと取ったときにはラインを超えていたという場合が多い。並行するときの体の入れ方のうまさ、相手DFのタックルのレンジに入ったときに、ボールを浮かせて逃げて着地…すべてがうまくいくとは限らないけれども、173センチの小柄な体の強さ速さとともに、24歳にならない若いこのFWの百戦錬磨ぶりに舌を巻く思いがする。


 イタリアの面白さは、彼のような小柄なFWでもためらいなくロングパスを送ることだ。

 67分には彼が相手DF2人の間を割って走って、シュートした。ビエリがハーフウエー・ライン付近をドリブルし、相手ともつれてこぼれてきたボールを、アルベルティーニがダイレクトで真っ直ぐ前のスペース、2人のDFがまるで門のように立っている間に通した。そのボールに合わせたデルピエロの動きのうまさと速さも、また驚くほどだった。

 完全に2人のDFの間を突破してのシュートが右ポストをわずかに外れ、失望の嘆息があがりはしたが、そのノーマークを作り出すための予備動作…ゴールを背にしてボールを見ながら、さりげなく後退り(ゴール方向へ)しながらオフサイドラインをにらみ、パスが出る瞬間に体の向きを変えて疾走した一連のプレーに、いわゆるCFタイプの体つきでないデルピエロのストライカーとしての能力を見る思いだった。



ノルウェー唯一のチャンス



 このシュートまでの約20分間、ノルウェーは攻めの意欲を持ちながらイタリアの守りを破れなかった。彼らの最も得意とする、FKやCKなどのセットプレーからのチャンスも生かせなかった。

 唯一の決定機は70分の右からのクロス、ミュクランがエリア内に入ってから送ったボールをT・A・フロがヘディングした。競り合うベルゴミの背後から体と頭を伸ばしてたたいたボールは、ゴールライン上へ鋭く落下したが、GKパリウカが見事な反応で防いだ。

 イタリアの守りはそれまで相手のクロスに対して、キッカーのすぐ近くまで、だれかが寄せてコースを押さえていた。だがこのときはミュクランにフリーで、しかもエリア内でキックさせた危険な状況だった。

 絶好機を物にできなかったノルウェーは、その直後にH・フロに代えてソルスチェアーを送る。小柄なマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)のストライカーだが、この大会ではあまり働いていない。入ってすぐ、シュートレンジでボールを受けながらミスパスをする。

 リードされた焦りと暑さは、ノルウェーの動きに影響する。

 テクニックの差を動きの大きさや当たりの強さで埋めるはずのチームが、利点を失うと辛い戦いとなる。

 イタリアにとっても決して楽なコンディションではないが、ボールを扱う姿勢のいい彼らはそれだけでも疲労は少ないはずだ。それでもC・マルディーニ監督は負傷のモリエロをディリービオに代え、アルベルティーニの代わりにペソットを送り、デルピエロを休ませて、キエーザを起用して万全の策を採って1―0で逃げ切った。

 恵まれた体格を武器に北国のハンディを克服して大会のベスト16に残ったノルウェーだったが、イタリアを破るにはまだ技術の向上が必要だった。

 一方のイタリアは、彼らとは対照的なカラーを持つチームを相手に、その一人ひとりのテクニックの高さと同時に、試合巧者ぶりを改めて強く印象づけた。それは若い選手をも百戦錬磨のべラランの域に引き上げる、セリエAの魔力を示すものとも言える。

(サッカーマガジンより)

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