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甦った強いブラジル因縁のチリに4―1と完勝

TGV内での新聞チェック



“11号車、シート番号72、ここだな”…98年6月28日11時過ぎ、フランス国有鉄道(SNCF)のマルセイユ、サン・シャルル駅、パリ行きのTGVに乗り込んで、荷物を下ろす。

 切符(BILLET)には高齢者割引(DECOUVERTE SENIOR AGE A JUST−FIER)の文字が打ち込まれ、値段は419フラン。通常のファーストクラスの558フラン(約1万1600円)に比べると、25パーセントの割引き。発車は11時21分、パリのリヨン駅着は15時40分となっていた。


 ワールドカップは前日から16チームのトーナメント・システムに入り、27日はマルセイユでイタリア1―0ノルウェー、パリでブラジル4―1チリの試合が行なわれた。この日はランスでフランス対パラグアイ戦が16時30分から、パリ郊外のサンドゥニで21時からナイジュリア対デンマークで組まれていて、わたしは後者を取材する予定となっていた。

 列車が動き出すのを感じながら、駅の売店で買った新聞を広げる。

 日曜日のためにインターナショナル・ヘラルド・トリビューンは27日、28日の合併号で27日の試合報道はなく、26日の試合と「きょうから第2幕」の予定だけ。サンデー・タイムズは27日のイタリア対ノルウェーの結果と記事はあるが、夜に行われたブラジルの試合は入っていなかった。マルセイユへ来る新聞は締め切りが早いらしい。英字新聞がダメだから、結局はフランスのスポーツ紙レキップを"見る"ことになる。

 そのレキップの15面ブラジルとチリの選手の配置イラストと採点を眺めると、前夜のテレビ観戦が思い出されてくる。



得点応酬のエンターテイメント



テレビを見ながらのメモには"両チームの攻撃で楽しいエンターテイメント、ブラジルの完勝"とある。

 セザール・サンパイオ、アウダイールが復帰してベストメンバーのブラジルに対して、MFの3人を出場停止で欠いているハンディを負うチリが開始から積極的に攻め込む。

 始めの10分間、そのチリの勢いに耐えていたブラジルが11分に訪れた最初のチャンスで得点した。

 左サイドでリバウンドへの反則から得たFKをドゥンガが右足で蹴り、見事に曲がって相手DFとGKの間に飛んだボールをセザール・サンパイオがヘディング・シュートで決めた。対スコットランドの開幕戦、左CKをヘディングした彼はこの大会のブラジルのファーストゴールに続いて、ノックアウト・フェイズでもブラジルの得点者の一番手となった。

 Jリーグコンビのこの先制は、ブラジル人の心に火を着け、サンバの攻撃リズムが高まる。左のロベルト・カルロス、右のカフーの攻め上がり、リバウド、レオナルドのドリブル突破などカナリア・サポーターを喜ばせるうちに、27分にまたFKから2点目を奪う。

 20メートルの地点からのロベルト・カルロスの強いキックが壁に当たり、リバウンドが左にいたベベットにも当たってエリア内を横切ってセザール・サンパイオの前へ。セザール・サンパイオは右足インサイドでゴール左下隅へシュートした。ゴール後方から撮影したリプレーの画面で、セザール・サンパイオがボールを注視して右足インサイドを的確にボールに当てるのを確認し、この日の彼の気力充実ぶりを知った。

 ロベルト・カルロスのキックの強さが生み出した異変だが、こういうときの反応が(1点目のマークも)遅れるチリはレギュラーを欠いたためなのか?セットプレーからの2点に加えて、前半のロスタイムにPKで1点を追加されてスコアは3―0と開いた。

 レオナルドから前方へ出たボールを追ってロナウドがエリアに入り、GKタピアに倒されたとして主審はPKを宣し、ロナウドが右足で決めたものだった。



サモラノの反応



 ブラジル楽勝のムードになった後半に緊張感を与えたのは、68分のサモラノとサラスの合作ゴール。中盤からドリブルで持ち上がったサラスがベガに渡し、ベガが右からエリア内へ入るサモラノに合わせる。サモラノのヘディングは、飛び出して防ごうとしたタファレルの胸に当たってピッチに落ちた。そのリバウンドにサラスの頭が見事に反応し、ボールはネットへ。

 それまでは中盤で短くつないでからサイドへ散らし、左、右から送ったクロスが正確さに欠けたり、ブラジルの2人の長身センターバックに防がれたりしていた。それを中央の後方から相手DFラインの裏へ落とし、右からの斜行によるヘディング攻撃に転じたアイディアも…だが、サラスがリバウンドボールに合わせるだけでなく狙ったヘディングをして、GKの脇を抜いたのには感嘆したものだ。

 勢い付いたチリにブラジルは2分後にお返し。ベベットに代わっていたデニウソンの持ち上がりから、ノーマークのロナウドがシュートをゴール左下に決めた。

 62年大会の準決勝(ブラジル4―2チリ)以来の本大会での対決は、間に90年大会の南米予選での花火問題という暗い話題をはさんだだけに懸念もあったが、ゴールの応酬という“サッカーの楽しさ”を歌い合う試合となった。


 きょうのサンドゥニはどのような展開になるのだろうか。



(サッカーマガジン 1999年4/14号より)

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