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ナイジェリアVSデンマーク戦ラウドルップ兄の花道を思う
フランス勝利にサンドゥニも明るく
サンドゥニの巨大なフランス競技場は満員だった。
"やはりナイジュリア人気かナ"
「デンマークからもずいぶん来ていますョ」
6月28日、午後9時前、キックオフタイムに向かって徐々にスタンドも記者席も気分が盛り上がってゆく。フランスのファンにとっても、この日、午後4時半からの試合で、フランスが勝ってベスト8へ進んだことも会場全体を浮き立たせていた。
ゴールキーパー、チラベルトのいるパラグアイの固い守りに苦しみながらの延長Vゴールは、フランス全土を沸き立たせたに違いない。
何事もちょっと斜めに構えるクセのあるフランス人は、世界中から人が集まって大騒ぎをしている大会にも、まだ45パーセントの人が、それほど関心を持っていない…という。が、きょうからの一発勝負、負ければすべて終わりだから、一気に注目度は高まるハズ…とは、ある英国人記者の話だが、この際どい勝ちによってフランスは優勝へ一歩前身したといえる。
競技場のプレスルームのテレビも、右のピレスからの短いクロスがパラグアイDFの上を越え、トレゼゲがヘディングして落としたのを、ブランが強くたたいてゴールした一連の映像を何度も流していた。
ブランの決意そのままに、飛んだボールがチラベルトの腕の下をくぐってゴールに向かう。スロービデオは何回見ても、フランス人には飽きることはないだろう。
緑のユニホームのナイジュリアはアトランタ五輪で優勝。こんども上位を期待されている。私たちは日本でのU―17世界選手権で彼らの天性のバネの強さや柔らかさなども見ることができた。
心臓に障害があるとされていたCFのカヌが戻ってきた。どちらへターンするのか読めないし、ボールを蹴るタイミングもつかみにくい彼は、万全ではないにしても、相手DFには防ぎにくい選手だ。
2トップのもう一人、イクペバは前年のアフリカ最優秀選手、オコチャ(連載第18回参照)、フィニディ、ラワル、オリセーのMFにアデポジュ、ウエスト、オカフォー、ババヤロのDFラインと、ほぼベストメンバー。
14年前のミカエル
デンマークは、本来の赤のユニホームでなくて、この日は白。ナイジェリアの選手がすべて外国でプレーしているが、デンマーク代表も、22人のうち国内クラブの選手は3人。
私の、この日の注目はミカエル・ラウドルップ。Jリーグのヴィッセル神戸でプレーし、そのあとアヤックスに移った彼にとっては、この大会が代表選手としての花道になるだろう…。
ミカエル・ラウドルップを初めて見たのが1984年の欧州選手権、フランスで開かれた大会で、デンマークはベスト4に進み、大きな舞台での初めての好成績を国を挙げて喜んでいたときだった。当時20歳の彼はFWで、"猛牛"エリケーアとともにチームの攻撃を切り開いた。そのドリブルの速さと巧さは、86年のワールドカップ(メキシコ)でも発揮され、さらにユベントスで来日したトヨタカップでも、プラティニとの見事なカベパスから得点して強い印象を残した。エリア内でターンしたとき、相手GKの手が触れてバランスを崩しかけたが、それを立て直して狭い角度からのシュートを決めたゴールは、メキシコ・ワールドカップの雨中のウルグアイ戦同様に、足腰の粘り強さを示していた。
ヴィッセル神戸での足跡
代表チームの監督との意見の違いから92年スウェーデンでの欧州選手権にはチームに加わらず、弟のブライアン・ラウドルップが、この兄弟の特徴ともいうべき"粘り腰"とスピードで優勝の立役者となった。
ユベントスからバルセロナ、レアル・マドリードなどトップクラブで働いたキャリアの最後を日本で…とヴィッセル神戸にやってきた彼は、かつてのような突破力を誇るのではなく、攻撃展開での"緩と急"の使い分けを演じ、永島の得点力アップに貢献した。
当時のインタビューでは、神戸がとても好きになったと言っていたが、再び欧州に戻ってしまった。監督とプレー上での意見の相違が原因の一つでもあったらしいが、そうした彼の最後の大舞台をぜひ見たい…と思うのだった。
16時30分、いよいよ試合開始。デンマークのキックオフは、11番のブライアンが軽くタッチ、10番のミカエルが後方へパスして始まる。
ロングボールで攻めるデンマーク、それを防いでパスをつなぐナイジェリア、その繰り返しからわずか2分後にデンマークの先制ゴールが生まれた。右サイドへ出たコールディングからのパスの落下点に走ったミカエルが、中央のモラーにパス、モラーが左足で強いシュートを決めた。
2人のDFの間のスペースへ走り、落下するボールを巧みに止めて、左足のアウトサイドでノーマークのモラーへ送ったパスは、まことに芸術的でもあった。
2分で1―0、意外な展開にスタジアムはどよめいた。
(サッカーマガジンより)