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ナイジェリアの反撃に立ちはだかるシュマイケル

 代表チームのブラジルとの対戦に続いて、ナイジェリアでのFIFAワールドユースでの日本のU―20代表の試合…。国内でのJ1、J2リーグも展開中で、経済苦境のなかでもサッカー界の歯車は忙しげに回っている。

 9ヶ月前のフランスの私の旅は、グリープリーグを終わり、ベスト16の戦いに入って2日目。6月28日の試合、前評判の高いナイジェリアから、デンマークが開始早々に先制ゴールを挙げたところです。



長身選手の左足アウト



“左で止めて、左のアウトで出したのか”

 記者席のモニターテレビに映る得点シーンのリピートは、ミカエル・ラウドルップ(右利き)が後方からのパスの落下点に走り、柔らかい動作で止め、立ち止まり、そのボールを左足アウトサイドでこれも柔らかく、モラーの前へ送り込んでいた。そのパスを受けて、左利きのモラーの左足のシュートがアウトサイドであることも、スロービデオは見せてくれた。

 ラウドルップのテクニシャンぶりは、神戸で何度も見ているだけに驚きはないが、それにしても、飛び出してノーマークでボールを受け、急接近する相手DFを見ながら、フリーになった仲間に“さりげなく”パスを出すミカエルの緩急を心得たプレーは、彼が「多くを学んだ」という円熟期のヨハン・クライフにも似ていた。そしてまた、シューターのピーター・モラー、オランダのアイントホーフェンで働くこの190センチの大男が、左足のつま先を内に入れてアウトサイドでボールを強くたたいたところに、デンマーク・サッカーの技術の進歩を見た。



FKからの2点目



 先制されたナイジェリアが、彼らの個人的なキープ力を生かして徐々に調子を上げオコチャ、イクペバ、カヌらのボールタッチが増え始めたとき、12分にまたモラーの左足からゴールが生まれる。

 ブライアン・ラウドルップのドリブルに対する反則で、デンマークはゴール正面、25メートルのFKのチャンス。ミカエルがソールで、わずかに動かしたボールをモラーがシュート。。4人のカベを外してのコースは守る側も予期したハズだったが、右に跳んだGKルファイはキャッチできずにはじいてしまい、それをブライアン・ラウドルップが決めた。

 スペインのデポルティボ・ラコルーニャでプレーし、代表65回のベテランGKのルファイとしては、いささか評価を裏切る失点だが、一つにはこのときのモラーの左足はインステップのような振り上げながら、彼の足そのものの大きさゆえに、足の甲というよりインサイド気味でたたいているので、あるいはルファイの手元で変化したのかもしれない。

 シューターとしてはこういう独特の“クセ球”を待つのがゴールにつながりやすいのだが…。それにしてもリバウンド・ボールに対して、左からブライアン,中央にヨルゲンセンが走り込んだ反応の早さに、この日のデンマークの意気込みが表れていた。



カヌのドリブルを防ぐ



 16分にナイジェリアが“らしさ”を見せる。それまでの右、左からの高いクロスを防がれていた。相手の右側の攻めからボールを奪い、ババヤロから中のオコチャへ。オコチャはドリブルし、グラウンダーを中央へタテに通す。攻撃ラインの右端にいたカヌが抜け出してボールを取ったところが、ペナルティー・エリアぎりぎり。ビッグチャンスだったが、デンマークのGKシュマイケルに防がれてしまう。

 この場面をモニターテレビで見ると、カヌがボールを取ったときに、すでにシュマイケルはペナルティー・スポットまで前進し、彼の前でドリブルするカヌの動きに注視。ボールが少し足から離れた瞬間に身を投げ出して右手でボールを止めた。

 かわそうとするカヌ、防ごうとするシュマイケルの対決は、ほんの1秒そこそこの間だったが、この日の前半のハイライトの一つ…もしここでカヌがGKをかわして得点していれば…である。


 ピーター・シュマイケルは、相手のGKルファイと同じ1963年生まれの35歳。“天下”のマンチェスター・ユナイテッドで7年のキャリアを持ち、92年欧州選手権でデンマークが優勝したときの殊勲者。

 気力が満ち、好調の彼のゴールは“難攻不落”といえるが、この対カヌのプレーは、まさに彼の充実を示すもの。“このシュマイケルを相手に2点のハンディは少し大きい”と思ってしまう。気力はシュマイケルだけでなくミカエルも同じ。中盤でドリブルをババヤロに奪われると、そのババヤロの突進を自陣ペナルティー・エリアまで追って、そのシュートを足に当ててCKにした。

 25分ごろからナイジェリアのキープとフェイントが場内を沸かす。左サイドから、一瞬のスキを突いてオコチャのクロスが中央へ上がり、カヌがヘッドする。

 33分にオコチャのボレーシュート。左に外れはしたが、ナイジェリアの追撃の勢いは強くなった。


(サッカーマガジンより)

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