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組織未熟のタレントの宝庫“成熟”デンマークに1−4

ラウドルップ弟の老練




“緑のユニホームに、あの草原を疾走するピューマのような躍動感がないのが気がかり”…ロスタイムを含めて47分間の前半が終わって、私は、メモにこう書き込んでいた。

 6月28日、パリ郊外サンドゥニ競技場。早いうちに0―2とリードされたナイジェリアの反撃は、11本のシュートを記録しながら、1ゴールも奪えなかった。単にシュートが決まらない、というわけだけでなく、彼らのドリブルやパスを追う動きにいつもの動きがなかった。
“グループリーグ突破の報奨金が、選手たちの期待よりもずいぶん少なく、そのため気落ちしてしまった”という話を、事情通のU氏から聞いたが…。その真偽はともかく、彼ら特有の瞬間的な速さがなければ、デンマークの賢固な守りを崩すことは難しい。

 ナイジェリアのキックオフで始まったセカンドハーフは、ボールを右に回し、ついでオコチャにボールが渡ったところでFKを得る。

 オコチャのターンの速さを止めるために、相手が手を使ったのだった。

 そのFKから6分間ははナイジェリアがボールをキープし、右からのCK、あるいは左からのクロスといったチャンスの気配も作り始める。
“2点を取られて火が点いてきたかな”と思うとき、ブライアン・ラウドルップが右からドリブルしつつ、相手DFを抜ききらないで蹴ったボールはゴールを目指し、GKの上を越えた。クロスバーに当たって得点にならなかったが、調子の良くないルファイはタッチをできなかった。

 一瞬ナイジェリア側はギョッとしたににに違いない。ミカエル・ラウドルップより5歳下の弟ブライアンも29歳。速さだけでなく、兄と同じように相手のイヤなところを突く老練さも見に付けたのだなと思ったりする。



ラウドルップ兄の十八番



 59分、ブライアンの左サイドのキープからスローインを得たとき、デンマークのボ・ヨハンソン監督はモラーに代えてサンドを送り込んだ。

 国内リーグのトップチーム、ブロンビー所属の26歳で、国内では点取り屋として知られているらしいが、予選には出場していない。この大会のグループリーダーから登場した、いわば新顔…、前半の2得点の殊勲者、190 センチのモラーより10センチ低いサンドの起用の意図は…とみると、その1分後に彼が得点してしまう。

 このゴールはミカエルが日本やレアル・マドリード(スペイン)でも見せた得意芸のひとつ、ドリブルしつつボールをすくい上げて、相手DFラインの背後へ落とすプレーからだった。前述の左サイドのスローインに始まり、A・ニールセン→サンド→A・ニールセン→ハインツェとボールがつながる。そしてゴール正面25メートルのミカエルに渡り、ミカエルがオリセーを左に外し、エリア前に立ちはだかるアデポジュとオケチュクウの頭上を越すパスを送る。

 落下地点へ、左後方からエリアへ入ったサンドはリバウンドで浮いたボールを頭で突いて出て、ウエストをかわし、ショートバウンドを右足で捕らえて、GKの左を抜いたのだった。3−0。

 65分まで、つまり後半の20分間のシュートは4本ずつ。ナイジェリアのシュートは3本が外れ、デンマークは3本がゴール枠内へ飛んだ。

 ミルティノビッチ監督はついにカヌをあきらめてイエキニを起用し、73分にはラワルをババンギダに代える。

 しかしその3分後、デンマークに4点目が転がり込む。

 右サイドでヨルゲンセンとA・ニールセンがトライアングル・パスを使って、ヨルゲンセンが右の空白地帯に侵入。エリアにドリブルで持ち込み、ノーマークでシュート。GKルファイがファンブルしたのを、サンドが右ポスト際で拾ってヨルゲンセンへ。ヨルゲンセンはゴール正面へきたヘルベグに流すと、ゴールエリアのライン上からヘルベグは強烈に蹴り込んだ。ルファイのミスとして、前半のFKからのゴールとともに併記されるだろうが、その前に簡単な三角パスでシュートレンジを明け渡した守りにも問題はあった。

 それにしても3点のハンディを背負い、動きが落ちるナイジェリアに対して余裕を持って、縦に出ると見せては横に、後ろにボールを回し、突如としてスピードを上げるデンマーク。個人の変化による突破ではなく、集団プレーの中で緩急を織り交ぜて相手の守りを崩すうまさは、92年の欧州選手権でオランダ、ドイツを相手に“ひたむき”な戦いで優勝したときに比べると、その強さの比較はともかく、代表チームとしての成熟を示していた。

 2分後にナイジェリアはババンギダのシュートで1点を返す。左からのフィニディのハイクロスをファーサイドの落下点で捕らえ、止めないでシュート。右ポストぎりぎりに決めたものだった。仲間と喜び合うことなく、すぐ次のキックオフに備えたババンギダたちだったが、5本のシュートは外れ、フィニディの1本はシュマイケルに防がれ、イクペバはDFリーパーに当ててしまった。

 タレントの宝庫ナイジェリアのワールドカップ上位進出は、次の機会を待つことになった。


(サッカーマガジンより)

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