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12年前のマテウスを思うモンペリエでのドイツ―メキシコ

185センチ以上が7人



 やはり大きい、いや、そろっているというのか…。

 ドイツ代表のラインアップに身長を書き込みながら思わず、つぶやく。

 6月29日、午後4時21分、ワールドカップもノックアウトシステムに入っての1回戦、ドイツ対メキシコのキックオフまで、あと10分足らず。両軍メンバーの場内アナウンスが終わっていた。

 ドイツのメンバーはGKケプケ(182センチ)、リベロのマテウス(174=写真)、べアンス(185)、バッベル(190)のストッパーの外に、右にハインリッヒ(185)、左のタルナート(186)、MFがハーマン(189)、ヘルマー(185)とヘスラー(167)、FWはクリンスマン(181)とビアホフ(191)。180センチ以上が9人はともかく、185センチ以上が7人もいる。

 一方、メキシコは小柄で人気のGKカンポス(175)にはじまり、パルド(175)、スアレス(186)、ララ(177)、ダビーノ(180)のDFから、MFのビジャ(171)、ガルシア・アスペ(171)、ベルナル(182)、パレンシア(173)、そしてFWのエルナンデス(175)、ブランコ(177)の11人のうち、180以上が3人だけ。

 サッカーは必ずしも高いほうがいいとは限らないが、これだけ身長差があると、高いボールに対しては、ドイツ勢は当然有利となる。

 しかも、ここにはヘディングの強さでセリエAで知られるビアホフと、ビアホフより10 センチ低いがヘディングもボレーシュートも上手なクリンスマンがいる。これがどのように表れるのだろうか。

 メキシコとドイツがワールドカップで対戦したのは1986年、あのマラドーナのアルゼンチンが優勝した大会。

 このとき開催国メキシコは、キラルテや小柄なストライカー、サンチェスの活躍でグループリーグをB組首位で突破してベスト16に進み、ブルガリアを2―0で破って、準々決勝で西ドイツ(当時)と顔を合わせた。

 西ドイツはグループリーグE組でウルグアイに引き分け、スコットランドに勝ち、デンマークに敗れ、1勝1分け一敗の2位で進出、モロッコをマテウスのFKで倒してのベスト8入りだった。

 12年前の6月21日の両者の戦いの場は、メキシコ北部のモンテレー。高度は低く、酸素希薄の影響はない代わりに、暑さと高い湿度のひどいコンディションだった。

 65分に、西ドイツはベルトルトがキラルテの挑発に乗って手を出して退場。10人となってメキシコが攻勢を続けたが、無得点のまま90分を終わり、延長に入ってその前半10分に、今度はメキシコのアギーレが退場処分。

 10人同士で決着がつかずにPK戦。メキシコの2人目、3人目が失敗、西ドイツが4人目も決めて4―1で勝ったのだった。



優勝、準優勝の栄光を背に



 西ドイツチームにはルムメニゲ、アロフスらの攻撃陣。マガト、マテウスらの中盤、サイドにはブリーゲルやブレーメがいた。ルムメニゲがケガを抱え、チーム全体の調子は良くなかったが、GKシュマッハーがPK2本を止めてベスト4への道を開いた。

 彼をはじめとして50年代生まれの選手が多いなか、マテウス、ブレーメ、リトバルスキ、フェラーたち60年―61年組がチームに入っていた。25歳のマテウスは酷暑の中で仲間を励まし、すでにリーダー格だった。

 この60―61年組が軸となって、90年のイタリア大会に優勝するのだが、マテウスは彼の仲間が代表を退いた後もプレーを続けた。

 96年の欧州選手権はザマーが新しいドイツの中心となったが、今度の大会にはザマーの故障が回復しないため、再びフォクツ監督の要請に応じて、マテウスは4回目のワールドカップの舞台を踏んでいるのだった。

 全盛期、その90年優勝のときの広い範囲でのシャープな動きと、強烈なミドルシュートはさすがに見られなくなったが、うまいポジショニングと落ち着いた相手との対応、さらには確実なパスはグループリーグでリードされていた対ユーゴスラビア戦を同点引き分けに持っていった、ひとつのポイントでもあった。

 86年準優勝、90年優勝、94年ベスト8を経て、彼は4度目のワールドカップで何を付け加えるのだろうか。



いきなり放り込み…だが…



 ポルトガルのメロ・ペレイラ主審の笛が鳴ってドイツがキックオフ。後方へボールを回し、いきなりロブを上げる。

 右にハインリッヒ、左にタルナートが前進し、両翼からクロスを上げようという狙いがはっきりしていて、ロングパスの多い展開は力強くはあるが、いささか大味な感がないではない。しかし、メキシコも10分までに2度攻め込み、予測の難しいエルナンデスのドリブルでドイツ側の脅威となる。

 15分に右に回ったビアホフが小さく浮かせたパスを出してハインリッヒがシュート(外れ)。16分にはメキシコのベルナルのロングシュートがケプケを襲って、ケプケのファンブルにドイツのサポーター郡はヒヤリ…導入部の活況に、わたしは12年前とは違う、好ゲームの予感にぞくぞくしてくるのだった。


(サッカーマガジン 1999年6/2号より)

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