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好シュート、好セーブ炎熱の下のドイツ―メキシ

 5月19日号は“史上最高のゲームは何か?”という企画がぎっしりで、わたしも、その中の「ワールドカップ10選」に加わったこともあって、“フランス98の旅”は休載。5月26日号から再開(連載46回)しました。今回は6月2日号(47回)に続いて、16チームによるノックアウトシステムの1回戦、ドイツ対メキシコ(98年6月29日、モンペリエ)の試合です。



メキシコの勢い、カンポスの果敢


“これは悪くないぞ”とうれしくなる。キックオフ直後からロングボール攻撃を続けて、彼らの高さの優位をちらつかせていたドイツが、15分にビアホフとハインリッヒの間で小さなパスを交わして、ハインリッヒがシュートした。右へ流れたビアホフがタッチぎわでキープし、反転して左足で小さく浮かせたパスを2人のメキシコDFの間に通し、外から中へ走り込んだハインリッヒがシュートしたのだった。

 自分たちの体格を生かすロングボールを出すと見せかけて、大きなフェイントから小さなパス。それもきちんとボールを浮かせて2人のDFの足の上を通したのは(プロだから当然とはいえ)心憎いプレーだった。

 メキシコも“一発”を見せた。16分の中央のパス攻撃から、はね返されたボールを中央やや右寄りのベルナルが受けて、ボレーで35メートルのロングシュートを敢行。GKの前で急激に落下したボールをケプケがファンブル、前へ強く転がしてしまったから、ドイツ・ベンチはヒヤリとしただろう。

 メキシコの強いシュートは6分にもあった。ペナルティー・エリア外でのドイツの反則で得たFKをガルシア・アスペが蹴った。長身ぞろいの相手DFとのハイボールの空中戦を避けたのだろうが、そのボールの勢いのあったこと。

 それはグループリーグの第1戦で韓国を3―1で破り、ベルギーと2―2で引き分け、第3 戦ではオランダに0―2とリードされながら、同点に追いついてE組の2位となった勢いをそのままに表していた。

 久しぶりに生で見るメキシコのプレーヤーの一人ひとりの体つきがしっかりし、ドイツ選手とのボールの奪い合いにも粘り強い…という印象。そして小柄なGKカンポス(写真)は相変わらず果敢で驚くべきジャンプ力を見せる。

 彼の飛び出しは、13分のドイツ右CKでヘスラーが蹴った高い、遠目のボールを、ジャンプし右手を伸ばしてたたき出し、またビアホフからのパスを受けたクリンスマンがノーマークでエリアへ入ったのを防いだ。後者は大きなトラッピングを追って突進するクリンスマンに向かうもので、勇気と決断がなければクリンスマンにゴールを奪われるところだった。



強いシュート、高いヘッド



 時間が過ぎるとともにドイツの圧迫時間が長くなり、メキシコの守備ラインがエリア内に押し込まれるようになる。34分にはヘスラーが左へ振り、タルナートが低いクロス、それをビアホフがダイレクトで左足シュート。だが、左ポストを外れる。

 37分にドイツは負傷したヘルマーをツィーゲに代える。その直後にタルナートの強いロングシュートがゴールを襲い、カンポスが見事な左へのジャンプセービングでたたいて、大拍手。

 これはハーマンがキープしてエリア近くに迫り、囲まれながら左へ横パスを送ってタルナートにシュートさせたもの。相手が後退して守りが厚くなったときのロングシュートは定石(じょうせき)ながら、タルナートのシュートの強いこと。グループリーグの対ユーゴスラビアのFKと同様…そしてそのシュートに見事に反応したカンポス。30度を越す暑さで両チームの動きがやや鈍り始めたなかでの、サッカーの魅力に記者席からも声が上がっていた。

 チャンスと見たドイツは手を緩めない。ハーマンからのパスをクリンスマンが戻って、エリア外の胸でのトラップのあと左足で左へ。ヘスラーがエリア内左で受けて縦にドリブルし、ゴールライン近くからクロスを送ると、ボールはカンポスの上を越えてファーポスト側のビアホフへ。1メートル90の長身はDFより上半身を上に出して頭でボールをたたく。ボールはバーに当たり、下に落下。ゴール前で大きくバウンドし、ベルナルがヘディングでタッチへ出した。

 パスを受けてから直進し、クロスを送ったヘスラー。高さも強さも申し分なく、ビアホフにとってはゴールして当たり前のボールだったが…。

 最も得意な形のビッグチャンスを逃すと、ドイツ側の勢いは落ちる。すると、今度はメキシコにチャンスが巡ってくるからサッカーはおもしろい。

 メキシコDFからのロングボールをドイツのDFバッベルがヘディングでクリア。これをビジャが取ってエルナンデスに当てると、エルナンデスはダイレクトで短いパスをパレンシアに送り、パレンシアはノーマークで一気に突進してグラウンダーの強いシュート。GK ケプケが足を出して防いだが、ドイツにとっては、マークがずれていてDFラインを突破された、最悪のピンチだった。

 炎熱の下のドイツ―メキシコは12年前のそれよりも見応えがあった。


(サッカーマガジン 1999年6/9号より)

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