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ビアホフの勝ち越しゴール負け試合を逆転し、ドイツがベスト8へ

ドリブルとパス、ドリブルとシュート



 それは後半始まってすぐ、1分20秒…。メキシコがドリブルでの持ち上がりから巧みにつないで先制ゴールを奪った。

 ことの起こりは左サイドのFKから。左サイドのブランコが後方からのパスを受けたとき、ベアンスが背後から押して笛。左タッチライン近く、ハーフウェー・ラインを少しドイツ側へ越えたところのFKを、ガルシア・アスペが左足で右サイドへ蹴った。

 ボールはハーフウエー・ラインに平行して飛び、パルドへ。パルドから中へスアレスに渡ると、(1)スアレスは前方が開いているのを見てドリブルで上がりエルナンデスへパス。(2)エルナンデスはほとんどタッチせずボールは左前へ通ってブランコに渡る。(3)ブランコはベアンスのマークを内に外し、円弧を描きながらバッベルをかわしてタテにボールをエリア内に流し込む。(4)そこに走り込んでいたエルナンデスは反転してボールを受けて右斜めに出てタルナートを外し、ターンしてゴールに向かい、GKケプケの左側を抜くシュートでファーポスト側へ決めた。

 メキシコらしいドリブルとパスを組み合わせた見事なゴールだが、DFスアレスが意表を突くドリブルからパスを出したあと、そのままトップの位置まで走った動きも、相手DFへのけん制として非常に良かったし、ブランコのペナルティー・エリア外の円弧ラインに沿うようなアークのドリブルからのパスの巧みさ。そしてボールを受けてからドイツDFの間を通り抜けるエルナンデスのドリブルと、落ち着いたシュートは芸術的でもあった。

 ドイツ側とすればリベロのマテウスを後方から前方へ上げて攻撃を強化しようとしたときだった。大型ぞろいのディフェンダーはエリア内で立ち止まってしまうと、相手の細かい動きについていけない場合があり、エルナンデスはまさに立木の間を抜いてゆくようだった。

 1―0、得意業に成功したメキシコは勢いづく。

 ドイツは58分に右のハインリッヒに代えてメラーを投入して中盤を強化し、攻めへの意欲を見せた。その直後にメキシコはカウンターで絶好のチャンスを生んだ。

  パレンシアと交代していたアレジャノのドリブルシュートが左ポストに当たり、リバウンドを取ったブランコがゴール正面6メートルのエルナンデスに渡したが、エルナンデスの左足ダイレクトのサイドキックはケプケにキャッチされてしまった。



チャンスを逃さぬクリンスマン



 0―2となるところを救われたドイツが勢いを取り戻す。64分にビアホフのヘディング・シュート。右へ外れたがいよいよクロスがゴール正面へ通り始めた。

 74分にドイツはヘスラーに代えてキルステンを送り込む。同じ32歳だが、パスの名手をブンデスリーガ得点王に代えたところにフォクツのゴールへの執着があるのだろう。

 その直後にドイツの同点ゴール。

 右からのクロスがメキシコDFの足元に落ちたのを処理できず、それをクリンスマン(写真)が拾って決めた…いわば、相手のミスがらみだったのだが…。

 きっかけは左タッチラインのスローインから、ハーフウエー・ラインでボールを受けたクリンスマンが高く蹴り上げて右へ送り、右サイドのハーマンがこれを取り、ハイクロスを送る。

 そのボールに対してジャンプしたビアホフの頭をかすめて、ボールはララの足元に落下し、しかも両足の間を抜けて後方へ転がると、そこにクリンスマンがいた。

 こういう突然のタナボタ式のチャンスは案外難しいものだが、さすがに百戦錬磨のクリンスマンは逃しはしない。

 彼の足元へ横っ跳びに身を投げ出して防ぎにかかる、GKカンポスの足の上を通すシュートを正確にボールの下を蹴ってゴールへ送り込んだ。



揺さぶってヘッドの2点目



 1―1。スタンドのドイツ・サポーターが勢いづき逆転への期待が高まるが、2点目が生まれたのは11分後、右からのボールをヘディングでビアホフが決めた。ビアホフのヘディングそのものも完璧なら、それに至る左右の揺さぶりの過程も、自信に満ちていた。

 メキシコのアレジャノのドリブルを奪ってから、マテウス―ハーマンと中央をつなぎ、ハーフウエー・ラインのクリンスマンに…(1)そこからダイレクトで左サイドのタルナートへ、(2)タルナートは左外から中のハーマンへ戻し、(3)ハーマンは中央右寄りのマテウスへ、(4)それをマテウスがもう一度左のタルナートへ送ると、(5)十分スペースを持ったタルナートはワントラップ後、右へ速いクロス、(6)これを右サイドのキルステンがエリア内から後方に戻って取って、左足でゴール前へ、(7)ボールが飛んだペナルティー・スポットにはビアホフとマーク役のララだけ。いいスタートを切ったビアホフのヘディングはゴール右ポストぎわへ。

 中から左へ、左から中へ、そしてまた左へ、さらに右へと、幅広い揺さぶりでゴール前のスペースを広げ、絶対の武器ビアホフのヘディングを生かした得点で、ドイツは問題を残しながらもベスト8へ進んだ。


(サッカーマガジン 1999年6/23号より)

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