賀川サッカーライブラリー Home > Stories > >フランス対イタリア セリエA攻防の妙

フランス対イタリア セリエA攻防の妙

取材チケットがないとは



 すっかり、メロディーのなじんだイタリア国歌。次いで、歌詞も覚えてしまったフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」…。サッカーの両大国の激突を控えて、キックオフ前の国歌の吹奏と、それを唱和するスタンドの歌声を聞くとき、ワールドカップに居合わせているという独特の充実感に浸るのだが、この日は、いつもほど高揚した気分になれなかった。

 それは、ワールドカップの取材で初めて取材チケットを入手できず、試合会場まで足を運びながら、ブレスルームでテレビ観戦をする羽目になってしまったからだ。

 大会を取材する記者の数が2500人。記者席に入り切れないために、会場によってはスタンドへ入れないこともあり得る…と聞いてはいたが、実際に我が身にそれが起ころうとは…。

 あらかじめ場外でプレミア付きの入場券を買う手もあったのだが、まあ、この“屈辱”もひとつの経験…と、チケット組がスタンドへ出ていった後、プレスルームのテレビの前でノートを広げたのだった。


 98年7月3日、フランス98は準々決勝に入り、ここパリ郊外サンドゥニの「スタード・ド・フランス(フランス競技場)」で午後4時半から、フランス対イタリアが始まろうとしていた。

 テレビ画面に紹介されたラインアップは、イタリアがGKパリウカ、DFはベルゴミ、コスタクルタ、カンナバーロ、マルディーニと、6月27日の対ノルウェーと同じで、長身のCF、T・A・フロを抑える見事な守りを見せたパルマのカンナバーロと、ACミランのベテランの組み合わせ。MFはインテルのモリエロとユベントスのペソット、パルマのディノ・バッジオ、ローマのディビアジオを置き、FWはデルピエロと、スペインのアトレティコ・マドリードにいるビエリ。



22人中15人がセリエA



 94年の米国大会に比べると一回り成長した…というより枯れた風格さえあるロベルト・バッジオがベンチなのは、いささか懐かしいが、マルディーニ監督はあくまで31歳のR・バッジオよりも、23歳のデルピエロをレギュラーとして優先したいらしい。

 フランスは2試合ぶりにジダンが戻り、GKはスキンヘッドのバルテズ、DFラインは中央がブランとドゥサイイー、右がチュラン、左がリザラズと不動のメンバー。MFはやや守備的にデシャンとプティ、そしてジダンとカランブー、その前にジョルカエフとギバルシュ。

 イタリア代表はビエリ以外はすべてセリエAの選手だが、フランス側のラインアップは、フランス・リーグの選手は3人だけで、ドゥサイイー(ACミラン)、チュラン(パルマ)、ジョルカエフ(インテル)、デシャン、ジダン(ユベントス)の5人がセリエA。それにリザラズ(バイエルン・ミュウヘン)、プティ(アーセナル)、カランブー(レアル・マドリード)とドイツ、イングランド、スペインが一人ずつ。

 両チームのスターティング・ラインアップは、22人のうち15人がセリエAということになる。

 ついでながら、ベスト8の8チームの、ここまでピッチに立った選手146人を所属リーグ別に分けると、セリエAが最も多く、50人。次いで△ブンデスリーガ(ドイツ)=22 人 △スペイン・リーグ=16人 △プレミアシップ(イングランド)=15人 △フランス・リーグ=10人 △オランダ・リーグ=9人 △ブラジル=7人 △クロアチア=6人 △スコットランド=3人 △デンマーク=2人 △アルゼンチン=2人。そしてグループリーグで敗退した日本のJリーグからも2人、そのほか、ポルトガル、スイス各1人となる。

 ベスト8チームの出場選手の34パーセントを占めるセリエAの勢力にあらためて目を見張るのだが、この日のフランス対イタリアは、いわばその象徴的なゲームと言える。



クローズアップでの1対1



 ラインアップを眺めていくうちに、チケット問題で落ち込んだ気分が少しずつ試合に傾いてゆくのに気がつく。残念には違いないが、テレビ注視も悪くはないだろう。

 この日の面白みは、まずフランスの攻めをイタリアがどう防ぐかにある。それはもちろん守りの組織、人の配置による部分が大きいが、何よりもイタリアの選手たちのセリエAで鍛えられた1対1の強さ、彼らの言う「個人の戦い」が基盤となる。

 もちろん、それは正当なタックルだけでなく、ファウル、あるいはファウルに近い、腕や足のからませ方を含めてのこと。マルディーニやカンナバーロ、あるいはベルゴミやコスタクルタから、FWのデルピエロ、ビエリに至るまで…その防衛プレーをテレビでたっぷり見せてくれるのではないか。

 イタリアのキックオフで始まって2分後、フランスが右FKと右CKから続けてクロスを送り込むチャンスがあった。FKは、右サイドのチュランの突破を併走して腕で妨害したマルディーニの反則。ジダンのタッチ際のFKの低いライナーに合わせたカランブーの飛び込み、その後に続くプティの右CKから、相手のクリアボールをジダンがダイレクトシュート。ボールは高く外れたが、フランスのゴールへの意気込みが強く表れていた。

 プレスルーム内にも緊張感が高まった。


(サッカーマガジン 1999年9/22号より)

↑ このページの先頭に戻る