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息をのむ無得点劇45分チュランに見るセリエA効果

プティの反転ボレーシュート



 前半20分までにフランスのシュートは7本、CKが5本、ゴールは生まれないが、攻め込みの気迫が目立っていた。

 口火を切ったジダンのボレーシュート(高くバーを越えた)のあと、2本目のシュートもジダン。彼をマークするペソット…同じユベントスであるところが、この試合の面白味だが…のジダンに対する反則で生まれたFKのとき、ペソットがキッカーのジョルカエフに目を動かした瞬間にジダンが相手DF陣の裏へ動き、パスを受けたもの。ポストへ飛ぶ低いシュートにGKパリウカの右手が触れて左CK。

 この日のフランスのCKは右は左利きのプティ、左CKは右利きのジダンが蹴る。そのジダンがニアへ送ったライナーを、これもニアの走り込み後、カランブーがポストの手前に飛び込んでジャンプして足に当てて後方へ落とすと、そのバウンドを捕らえてプティが左足の反転ボレーシュート。

 フワリと浮き上がったボールがゴールへ向かって落下するのを、パリウカが後ずさりしながらジャンプして、右手でたたき出して、今度は右CK。

 そしてこのプティのファーポスト側への右CKは、そのまま流れてイタリア側の自陣CK近くのスローインになって、イタリア側は一息つくが、1分間に2本のシュート、3本のCKの連続はまことにスリル満点。わたしにはゴールに背を向けて反転したプティが、ボレーでゴールを狙ったシュートに彼の発想の豊かさを知った。

 日本のグランパスの監督でもあった、ベンゲルの秘蔵っ子の彼の活躍の場はセリエAではなく、プレミアシップだが、この「後ろ向きボレーキック」から、わたしは89年の秋にミラノで見たACミランのライカールトの「後ろ向きボレーキックの縦パス」を思い出す。

 欧州スーパーカップの対バルセロナ戦で、中盤後方にいたライカールトが自分の後方でのバウンドボールを、そのまま捕らえて、相手DFの裏へスルーパスを送ったのに、その着想と長身(188センチ)の彼のボレーでボールを捕らえる高さに感嘆したものだが、プティ(185センチ)にも、それを見るとは…。



惜しいビエリのヘディング



 フランスに攻められ、押し込まれていたイタリアが、その鋭い攻めを見せたのは9分だった。

 相手のギバルシュの遠目のボレーシュートを、パリウカが捕球してからの攻撃。ミッドフィールドでのボールの奪い合いから、こぼれ球を拾ったディビアジオが、右オープンのモリエロに送った。前に出ていた彼のマーク役のリザラズが、急スピードで追走するのを、モリエロは巧みな切り返しでかわし、エリア右ギリギリから高いボールをファーポストへ。そこへ走り込んできたのがビエリ。ビエリのヘディングはポストを外れたが、フランスのベンチにいたジャケ監督たち、いや貴賓席にいたシラク大統領も、組織委員長のプラティニもヒヤリとしたに違いない。

 この攻撃はフランスの第1防御網ともいうべきデシャン、プティのところでのボールの奪い合いから、イタリア側の後方へ転がったのを、(1)ディビアジオがノンストップで蹴ったこと(2)モリエロが空中のボールをトラップしたあとのフェイントと切り返しで、追走のリザラズを崩したことが大きなポイント。

 リザラズをかわし、右足でボールの下を蹴って、手前のドゥサイイー、ブラン(デルピエロをマーク)の上を越し、ファーポストへ走り込むビエリに合わせたボールも見事だった。

 わずか2本のパスでの決定的なシーンをテレビのリピートで見ながらあらためて、こういうときのイタリアの選手、一人ひとりのボールテクニックの高さと、ここというタイミングをつかむ上手さに感服した。

 しかし長身でヘディングの強いビエリが飛び込み、彼をマークしていたチュランより高く上がってヘディングしたが、わずかに外れたのはチュランの体がジャンプから落下するまで付いていたから、速度の速いボールへ的確に合わせられなかったのだろう。

 フランスの選手の守備動作は平均して、イタリアに比べて淡泊な感じがしていたのだが、チュランのこうしたヘディングジャンプの粘着性は、彼がパルマに所属してセリエAで身に付けたものなのか、とも思う。



ロスタイムにまたまた…



“冷汗”をかいたフランス側はなおも強攻する。最終ラインもチャンスがあれば前へ、と意欲満々。前半にリードすることが相手を攻勢に転じさせる唯一の手であり、そうすればさらに追加点を取れる…。

 そのフランスの圧迫に28分までにイタリアの反則が11(フランスは4のうち、1つはオフサイド)と多くなり、イエローが2枚で、1枚はベルゴミ、もう1枚はデルピエロ。ユベントスのエースストライカーはチュラン、ブラン、デシャンといった相手とのボールの奪い合いから4回反則を犯したのだが、前半半ばを過ぎて、1本のシュートも打てず。ひたすらボール奪取に力を費やすエースストライカーの姿に、わたしは彼らの徹底した前半の作戦と、60年代のカテナチオ以来の、一人ひとりの守備意識の高さを見る思いがした。

 しかし守りというものに、破たんは生じるもの。前半終わりに、だれもが「ゴール」という場面がやってくる。


(サッカーマガジン 1999年9/29号より)

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