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フランス、PK戦を制しベスト4へ

見出しは「感動」



 ギャル・リヨン(リヨン駅)は、スカイブルー(セレステ)と白の縦縞ユニホームを着たアルゼンチン・サポーターでいっぱいだった。

 なるほど、そうか、サンテチエンヌでの対イングランド戦(6月30日)に勝ったセレステを応援した後、彼らはパリに戻っていて、きょうのマルセイユでの対オランダ戦に出掛けるのか…。

 7月4日、11時6分発のTGV306列車でマルセイユに向かう私は、パリのリヨン駅でアルゼンチン人の大群に驚かされた。私の車両も満席。2階建ての明るいファーストクラスでは、彼らのスペイン語が飛び交っていた。幸いなことに1番前の1人席で、その会話の渦から離れ、いつもの通り、新聞を広げてメモを読みなおす。

 7月4日付のスポーツ紙、レキップの1面の見出しは、「QUE D'EMOTIONS(ケ デモーション)」と簡潔。フランス語は知らなくても、「大感動」だろうと勝手に解釈する。1面のフォトは抱き合うジダン、バルテズ、アンリ、リザラズたち。PK戦で失敗したリザラズの背番号3が大きく写っているのが象徴的だった。

 3面にPKのイラスト、2つのゴールに、それぞれ5人のキッカーのボールの到達点を要領よくまとめている。それを見ながら、あらためてその場面を振り返る。



フランスが先、一番手ジダン




△一番手はジダン。右足インサイドで左下へ。キックの前に右足をやや右へ開く感じを見せたためか、GKパリウカはボールと反対側へ跳ぶ。


▲イタリアのトップはロベルト・バッジオ。94年大会決勝の苦い記憶はすでに消え、右足で右ポストぎりぎりへ。GKバルテズは逆方向へ跳んだが、たとえヤマが当たっても、取ることのできない見事なコントロール・シュートだった。


△フランス2番手のリザラズは得点の左足で左に蹴ったが、パリウカがセーブ。読みもいいが、シュートそのものがGKの手の届く範囲だった。


▲リードできるチャンスにイタリアの2人目アルベルティーニも止められてしまう。助走が短く、左足の踏み込みも、右足の振りも、バルテズにはコースを読めただろうし、コースもGKのリーチの中。近くても、もう少し高ければGKには難しかっただろう。


△振りだしに戻ってフランスはトレゼゲ。右足で左下スミへ。


▲イタリアのDFコスタクルタは右足で左へ。GKは方向を読んだが、ボールが高くて手の先をかすっただけ。


△4人目、フランスは20歳のアンリ。トレゼゲと同様、若いストライカーらしく、助走の勢いを乗せて右足の強シュート。方向はトレゼゲと逆の右ポスト。読まれたが、コースも良く、速くてGKは届かない。


▲イタリアもストライカーのビエリが来る。やはりストライカーは、読まれても得意の左足で強い球を右ポストぎりぎりへ。早めに跳んだバルテズもボールが高くてタッチできなかった。


△5人目はDFながら強シュートの持ち主、ブラン。パリウカはその強さを計算したか、ブランのキックより早く左へ(ブランから見れば右へ)動いたが、ボールはゴール中央に突き刺さった。4−3。


▲イタリアの5人目はディビアジオ。この有能なボランチは、利き足の右で蹴るのに助走はなく、一歩の踏み込みで強くたたくと、ボールはバーに当たってはね返った。ヤマをかけて左に動いたバルテズは、そのボールを見ないで走って喜びに跳び上がり、ディビアジオはあお向けに倒れてしまった。

 テレビの画面はそのあとの選手たちの表情とともにロイヤルボックスをとらえ、シラク大統領の喜びを伝えていた。



PK3連敗のイタリア



 イタリアはこれでワールドカップで3大会連続してPK戦で敗れた。90年イタリアで開催した大会の準決勝で、マラドーナのアルゼンチンと1−1のあとのPK戦が3−4。4人目ドナドニと5人目セレナがセーブされた。

 94年米国大会では、ブラジルとの決勝で0―0の後のPKを、バレージがオーバー、マッサーロが防がれて2―3となったあと、5人目のロベルト・バッジオがオーバーしたのは、日本のファンにもまだ記憶に残っている。

 一方フランスも、今度がワールドカップ3度目のPK戦。82年スペイン大会の準決勝で西ドイツ(3―3)とのPK戦を4―5で失い、86年メキシコ大会準々決勝でブラジルと1−1からPK戦を4−3で勝っているから、今度でPK戦は2勝1敗となった。

 ワールドカップでPK戦が行われたのは、82年大会が最初で、以来4大会で11回行なわれ、この大会でもすでに2回目。ベテラン記者のブライアン・グランビルのように、PK戦はワールドカップの肥大化の産物で「4年間の両チームの努力を"筋違いのくじ引き"によって裁く」と非難する者もいるが、テレビの放映という点からいけば、シューターとゴールキーパーが1対1で向かい合うのだから表情のアップも撮れ、緊張感の持続できるショーとして最高の1つと言える。

 そのスリル満点の勝利で、フランス国民の優勝への期待が一気に高まったという。


(サッカーマガジン 1999年10/13号より)

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