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先制デンマーク、追撃ブラジルシーソーゲームのスリルに酔う
ラウドルップ兄弟の早いFK
得点が入ったのは前半の2分だった。ペナルティー・エリアの左角、すぐ外でのFKを、意表を突く早さでスタート。エリア内に縦に流し込んだボールをブライアン・ラウドルップが取って、ゴール・エリア左外から、後ろ目へパスを送ると、走り込んできたヨルゲンセンが左足でシュート、ボールは勢いよく左ポストぎりぎりに飛び込んだ。
7月3日、午後9時からナントのボージョワール競技場で始まった準々決勝、ブラジル対デンマークは、デンマークの早い先制ゴールが生まれてテレビを見つめる人たちを驚かせると同時に、これは面白くなるぞ、と期待をもたせる。
なにしろ、午後4時30分からサンドゥニで行なわれたフランス対イタリアが2時間の大接戦でノーゴールだったのに、この試合はキックオフ後120秒でゴールが破られたのだから…。
もちろん、見るものにとっては驚きではあっても、デンマークの早いリスタートは彼らの戦術のひとつ。
チームのプレーメーカーのミカエル・ラウドルップの、ショートレンジでのFKを素早く、しかも"さり気なく"味方に渡すやり方は、グループリーグの対フランス戦で、ゴール(PKを得て)を奪っている。
この日のデンマークのラインアップは6月28日にアフリカの雄、ナイジェリアを4−1と破ったときと同じ。GKはマンチェスター・ユナイテッドファンが誇るシュマイケル、DFはリーパーとヒョイの2センターバック、右はコールディング、左がハインツェ。MFはヨルゲンセン、ヘルベグ、ニールセンとミカエル・ラウドルップ、FWはブライアン・ラウドルップとモラー。
11人のうち、デンマークのクラブにいるのはコールディング(25歳)ひとりで、10人は外国リーグ、プレミアシップに2人、セリエAに2人、オランダに2人、スコットランドに2人、ドイツに1人、トルコに1人だった。
スロービデオの別の角度で捕らえた1点目は、ミカエルがボールを手でプレースしたとき、ブラジル側はドゥンガ、カフー、レオナルドの3人がボールのすぐそばに立ち、デンマークも反則を引き出したモラーと、ブライアンがいた。
そのブライアンが、兄が(ボールを)置くと同時に、スタートを起こしたのが第1のポイント。ブライアンはブラジルの2人の追走と、前方から寄せてくるセザール・サンパイオに対してゴールエリア左外からゴール正面、右斜め後方へパスを送ったのが、第2のポイント。それにヨルゲンセンが合わせて走り込み、ダイレクトでたたいたのが第3。ボールがゴールへ入った瞬間にはエリア内に黄色いユニホーム7人とGK1人に対して、赤は3人だけ。一つのタイミングですべてが決まってしまうサッカーのおもしろさが出ていた。
RとBのパートナーシップ
さしものカナリア軍団も、この一発にいささか驚いたのか、しばらくはパスミスがあったが、やがて右CKからロベルト・カルロスの強いシュートがシュマイケルを襲い、しだいに調子を取り戻す。
そして10分。それまで沈黙していたロナウドの動きから、同点ゴールが生まれた。
DFが相手の攻めのボールを奪った後、守備ラインとMFラインの間でパスを交換し、深い位置でドゥンガがボールを持ったとき、中央のトップにいたロナウドが後退してハーフウェー・ライン近くでボールを受ける。それに合わせてデンマークの守備ラインが前進したとき、左に開いていたベベットが中央へ動く、とロナウドは左へドリブルして1人をかわしつつ、正確なパスを送ると、ベベットはパスを追って突進。エリアぎりぎりから鋭いシュートをゴール左ポストいっぱいに決めた。
ロナウドがボールを受けて反転し左へ流したときに、左タッチ際にロベルト・カルロス、そして左前方にリバウドが展開してデンマークの守備網を広げていたから、ロナウドの突進を警戒したデンマークのディフェンダーはベベットの中央への動きにノーマーク。シュートするベベットを追走したのは、ディフェンダーではなく中盤のヘルベグだった。
このときまで約10分間、ほとんど攻撃にからんでいなかったロナウドだが、彼の無言の威圧感がベベットの見事な動きとともに、同点ゴールを生んだ。
ドゥンガのボール奪取
1−1となって、両チームの競争心は一気に高まる。
ロベルト・カルロスがブライアンの足をはさむタックルでイエローカード。そのロベルト・カルロスの早いドリブルを止めようとしたヘルベグにも"黄色"が出て、攻防は熱を帯びる。
お互いに攻め合うとなれば、ボールを扱う技術が上のブラジルが有利となり、押し込み始めた27分に2点目を奪い取った。
相手DFのヒョイから、MFヘルベグに出たボールをドゥンガが25メートル地点でこのボールを取り、ロナウドへ。さらにリバウドへと渡って、ペナルティー・エリアぎりぎりで受けたリバウドがドリブル、飛び出すシュマイケルの動きを見ながらシュートを決めた。
守備で大活躍しているヘルベグだが、後方からのパスを受けるとき、自分を狙っているドゥンガの気配に気がつかなかったのか、体でボールをカバーすることなく奪われたのは痛い。
一つのトラッピングが命とりになる…ワールドカップはやはり厳しい舞台だった。
(サッカーマガジン 1999年10/20号より)