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クライファート先制、C・ロペスが同点
バッジオの全人格的プレー
JOMO CUPでのロベルト・バッジオのプレーは、まことに楽しいものだった。この連載の中でも紹介したが、94年のPK失敗の後のつらい日々を経て、98年大会のR・バッジオは、まことに素晴らしく、デルピエロの控えでありながら、不満を表すこともなく、淡々と彼の持ち芸を見せてチャンスを生み、自ら決めてイタリアに活気を与えていた。
1年たったいまもセリエA(インテル)では出番は少ないようだが、東京では日本の選手を相手に憎いほどの名人芸だった。そしてまた、ゴールした後、チャンスを作った黄善洪に走り寄って、抱き合った姿に彼の人格を見たものだ。
信仰心を持ち、高い技術を備えて32歳までプレーし続ければ、ここまで達するのか。多くの名人を見てきたわたしにも感銘深い、ことしのR・バッジオだった。
バッジオほどでなくても、近頃の海外からのテレビ放映を見るにつけ、フランス98を経験した多くの選手たちの成長ぶりがうかがえる。
日本選手にも昨年の後半にはフランス効果が見えたが、ことしはどうだろう。
わたしのフランス98の旅は、いま準々決勝、前回に続いてマルセイユでのオレンジとセレステ・イ・ブランコ(空色と白)、オランダ対アルゼンチン。前半が始まってすぐのところから…。
ベルカンプのヘディングパス
先制ゴールは12分、奪ったのはオランダだった。
その少し前、オルテガが左タッチライン沿いから中へドリブルしたときにスタムに足を引っ掛けられて倒れてFK。スタムに黄色が出された。25メートル、左寄りの地点からのキックは、バティの強烈な一発だったが、ボールは飛び出してきたダビッツに当たって、ハーフウェー・ラインまで転がった。長身選手で壁を作り、小柄なダビッツが飛び出す。オランダの対FK対策はまず成功。そのピンチを防いだあとにチャンスがやってきた。
自陣25メートル中央のスタムから、ハーフウェー・ライン、右タッチ沿いのロナルト・デブールにパスが送られ、短くキープしたR・デブールが前方のヨンクへパス。ヨンクは右へ上がるライジガーに渡そうとしたが、DFに当たったリバウンドは再びR・デブールに。
ハーフウェー・ライン、やや右寄りで取ったR・デブールは、初めはゆっくりドリブル。30メートル辺りでスピードを上げて右へアジャラをかわしてゴールに向かい、エリア外、中央やや左寄りにいるベルカンプへライナーのパスを送ると、ベルカンプはこの低いボールに見を屈めてヘディングし、エリア中央の無人のスペースへ。そこへ後方からクライファートが走り込み、GKロアよりも早くその長い右足を伸ばしてボールをゴールに送り込んだ。
R・デブールがドリブルしてアジャラをかわして前進したのが第1、そのライナーのパスをベルカンプが見事に処理したのが第2、クライファートがベルカンプの後方からいいタイミングでスタートしたのが第3…ひとつのドリブルと2本のパスで作った決定機だが、R・デブールからパスを受ける前に自分のマーカーから離れたベルカンプの動きと、その後方にいて、あえてゴール前のスペースを空けておいたクライファートのスタートのタイミングと疾走が見事だった。
GKの足の間を抜いてゴール
記者席のモニターテレビにはパサレラ監督の表情が出た。78年優勝チームのキャプテン、リベロあるいはDFとして堅い守備で知られた彼には、イングランド戦に続いての中央部を崩されての失点をどう感じたのだろうか。
アルゼンチンも攻め返す。16分、右タッチ際でオルテガを倒したニューマンに警告の出たFKからベロンがドリブルし、バティ、C・ロペスの短いパスから守備ラインの裏へ流し込んだボールにベロンが走り込んだが、ボールの方がわずかに早く、GKファンデルサールが取った。同じ中央攻撃でも、オランダの長いパスと広いスペースへの疾走でなく、短いパスで狭い地域を突くアルゼンチンらしい攻め。得意の型を見せると、直後の17分に同点ゴールを決める。オランダのGKからのロングボールを右に開いたベルカンプが受けるのを3人で囲んで取り、センターサークルのオルテガへ。オルテガはマークに来るダビッツの向こうにいるベロン(先ほどゴール前に突っ込んで戻ろうとしていた)に渡すと、ベロンはワントラップ後ためらいなくディフェンス・ラインの後ろへ送り込む。これを後方から走り込んだC・ロペスがノーマークで取り、GKファンデルサールの前でフェイントをかけて、その姿勢を崩し、足の間を抜いてゴールを奪った。
スタムとフランク・デブールのオランダ両DFは、相手の右サイドのバティをオフサイドトラップにかけたハズだったが、ボールを取ったのはオンサイドから走り上がってきたC・ロペスに、オフサイドトラップの裏をかかれた形。わたしはメモに94年の対ブラジル戦と同じ…と書き込んだ。
1−1。勢いづくアルゼンチン、気を取り直して攻め返すオランダ。その攻防は暑い日差しを忘れさせた。
(サッカーマガジン 1999年11/10号より)