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ベルカンプの美しいゴール波乱の戦いはオランダに

ポストたたくシュート



…先制ゴールはまさに、オランダという感じでしたネ。

"これぞ、アヤックス・サッカーと喜ぶ信奉者も多いのではないか。クライファートとベルカンプがそろうと、威力がある"

 試合内容が良いので、ハーフタイムの記者席の会話も弾む。

 7月4日、マルセイユでの準々決勝、アルゼンチン対オランダは前半を終わって1−1。オランダが見事なパス攻撃で先制すると、アルゼンチンもオフサイド・トラップの裏を突いて同点にした。

 オランダのシュートは7本、アルゼンチンは4本。全体的にはオランダ優勢だが、30分をすぎてオレンジの動きが鈍ると、セレステのキープが増え、ゆっくりとしたペースが突然ゴール近くで早くなると、シュート・チャンスを生んでいた。

 そのうち38分のオルテガのシュートはエリア外からの右足の強いボール、左ポストに当たって、オレンジ・サポーターをヒヤリとさせ、46分にはシメオネがエリア内でノーマーク・シュート。外れはしたが、空白地帯でシメオネがパスを受けたとき、オランダ・ベンチは腰を浮かせたに違いない。

 バティステュータの調子がいまひと息だが、オルテガは7回も倒されながら頑張り、同点ゴールを決めたロペスは、左サイド突破で驚かした。

 オランダのキックオフでスタートした後半、初めの20分間は、ボールキープはオランダ、DFとMFの間でのパス交換が続き、機を見てサイドからの突破、あるいは中央部での攻め込みを図るが、ボールを回すだけで終わっているうち、64分にアルゼンチンがカウンターから、バティステュータの強いシュートが出た。

 相手のボールを奪ったあと、ベロンが早いドリブルで持ち上がり、右に開いたバティにパス。バティはF・デブールを内側へかわし、左足でボールをたたくと、ボールは左ポストに当たり、リバウンドは左タッチラインへ転がり出た。この試合、それまで眠っていたように見えたバティの豪快な一発。もう3センチ以内なら、ポストに当たってゴールインしただろう。



ニューマン退場、オルテガも



 スタンドのどよめきが消えないうちに、オランダがチャンスをつかむ。R・デブールと交代したばかりのオフェルマルスが俊足を生かして右サイドを走り、コーナーでの切り返しから早いクロス。クライファートがヘディング、GKロアが防いだが、これで一気にオランダが勢いづき、パスのスピードを上げ、相手の守備ラインが後退するとみるとロングシュートを敢行する。

 アルゼンチンはアルメイダに代えてピネダを投入してオフェルマルスに当て、7人が深く守ってエリア内への侵入を許さず、奪ってはカウンターに出ようとする。

 72分、このアルゼンチンのカウンターを防ごうとして、ニューマンが2枚目のイエローで退場処分。

 右のライジガーが中へ送った横パスをベロンが奪って、自陣40メートル中央へ横パス。シメオネがこれを取って出ようとするところをニューマンがタックル。これがシメオネの足へいってイエローとなったもの。

 10人となった相手に、アルゼンチンは余裕を持ってキープできるようになったが、疲れからか、大事なところでスピードが上がらず、またパスも正確さを欠いて、10分間にシュートは右クロスからのバティのヘディング(バーを越す)と、ベロンのロングシュート(GK正面)の2本だけ。

 86分にエリア内の右コーナーあたりでオルテガがキープするというチャンスを迎えながら、こんどはオルテガが退場処分…。

 右から左へ切り返し、次に右前に出るとき、体を寄せてくるスタムの足が引っ掛かってオルテガが倒れたように見えたが、レフェリーの判断はオルテガがPKを得ようと自ら倒れたとして黄色。そのとき、長身のオランダGKファンデルサールがオルテガに近付く。倒れていたオルテガが立ち上がると同時に、頭でGKのアゴに頭突きし、倒れるファンデルサール。"シマッタ"と下を向くオルテガ。レフェリーは、オルテガにレッドカードを見せて退場を指示した。

 記者席から見た感じでは、GKファンデルサールのオルテガへの接近は明らかに意図的な挑発といえたが、"何か"を言われたとしても、それに乗せられて頭突きしてしまえば"手を出した"ほうが負け。前半からオランダ勢に入れ代わり立ち代り、不正タックルで倒されてきたオルテガが、辛抱しながら、あとわずかのところで切れてしまった。

 10人対10人で再開されて、まず攻め込んだのはアルゼンチン。C・ロペスが左からクロスを上げたが、バティには高過ぎ、フォローする者もなかったから、ボールはオランダ側、F・デブールが取ってドリブル、そして彼のロングパスから試合を決定づけるベルカンプのビューティフル・ゴールが生まれた。

 ハーフウェー・ライン手前10メートルから蹴られたボールは、高く斜めに飛んで、相手のペナルティー・エリアに落下、走り込んできたベルカンプが見事にコントロールして決めたのだった。

 波乱のゲームの完結は、歴史に残る、個人技の冴えだった。


(サッカーマガジン 1999年11/17号より)

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