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旅とサッカーに、ハプニングはつきもの

代替機はなく欠便です



 「こんなことなら鉄道にすればよかった」

 ホテルを出る前の予感が的中し、イライラが一気に昂まってくる。

 1992年6月18日16時30分、ストックホルム空港でわたしは時計ばかり気にしていた。

 16時05分発のSK169便でイエーテボリへゆく予定が、飛行機の都合で出発できないでいた。コペンハーゲンから来る機が、故障で、代替機もないという。

 こちらは、イエーテボリの20時15分キックオフの試合を見ようというのに……。

 ヨーロッパ・サッカー選手権は、いよいよ1次リーグの最終ステージにはいっていた。前日の6月17日、ストックホルムで開催国スウェーデンがイングランドを2―1で破り、マルメではデンマークがフランスを2−1で破り、マルメではデンマークがフランスを2−1で下して、A組からスウェーデン、デンマークが準決勝へ進んだ。そして、この18日はイエーテボリで、オランダ対ドイツ、ノルチェーピンでCIS(旧ソ連)対スコットランドのB組の各第3戦が組まれていた。

 いつもならば飛行機が遅れるなどと、心配したこともないのに、この日は用心して、お昼すぎに空港について、13時、14時、15時の各便のウエイティングを申し込んだが、いずれも席がとれず、結局、リザーブしていた169便まで待ったが、その便が欠航…。

 インフォメーション・デスクでかけあっていたら、“17時20分発のイエンチェーピング(JoNKoPING)行きがあります”“同地到着が18時、そこからイエーテボリまで200`”“航空会社がタクシーで送ります”ということになった。



  オランダが早々とリード



 イエンチェーピングというのは、ストックホルムとイエーテボリの中間より、少しイエーテボリより。ベッテルン湖という細長い湖の南岸にある人口10万。というのが飛行機の中の小冊子の地図をみて、スチュワーデスに教えてもらった知識、その寂しい空港について、受け付けにゆくと、こらから車を手配するという。

 チャーター車がスタートしたのは18時30分、さあこれで、スピードをあげてくれたらなんとか間に合うかナ、と思ったら…、たしかにタクシーは急いでくれたが、イエーテボリの市内まででなく、空港でストップ。乗り合わせた土地の人によると、“航空会社はイエーテボリ空港まで乗客を運ぶ責任を負っている”“リーゾナブル”に違いないから、止むなくイエーテボリ空港からタクシーをとばして市内へ。ウレッビ競技場についたのが20時30分すぎ、わたしがスタジアムにはいる直前にあがった大喚声は、オランダの2点目に沸きあがったものらしい。(あとでビデオを見たところでは、2分にファンバステンへの反則からFK。クーマンがロブをあげてライカールトが、PKスポットのあたりで、高くジャンプしてヘディングを決め、14分にまた同じような位置でのFKから、こんどはクーマンのキックではなく、彼からの短いパスを左ききのビチュへが低いライナーでカベの間を抜き、右ポスト内側へ決めたのだった。)



  すべてはスコットランド



 記者席から、とりあえず両チームの配置を眺め、メンバーをノートに書きこむ。ドイツはスコットランド戦で、頭部を負傷したブッフバルトとロイターを欠いたため、わたしには初顔のフロンツェクを左に、ブレーメを右におき、ビンツとコーラーが中央を守る。MFのザマーをはずしてヘルマーを置いたのも、二人のレギュラーDFを欠いた守りを少しでも強化しようとしたのだが、成功とはゆかなかった。

 後半にドイツの動きがよくなる。ビンツをベンチにもどし、ヘルマーをDFに、MFにザマーを入れ、53分にはヘスラーの右CKをクリンスマンがヘッドで1−2と追う。

 25メートル以内にオレンジのユニホームの10人が後退する場面がではじめ、パスミスもふえはじめると、ミケルス監督はMFのビンターを送ってDFのデブールに代え、ライカールトをさげて守りの安定をはかった。

 ヘディングも強く、読みのいいライカールトによって後方がしっかりすると、オランダが盛りかえして、両チームの攻防は、さすがに見ごたえのあるものになったが、72分にそのビンターの右サイドでのドリブルからのクロスを、ベルカンプがヘディングで左すみに決めて3−1とした。

 ファンバステンがニアポストへ走ったのにドイツDFがつられて、ゴール正面は空白となり、ベルカンプを妨げるものはいなかった。3−1、88年の欧州チャンピオンが90年のワールド・チャンピオンを破った。

 試合後の記者会見でドイツのフォクツ監督は「スコットランドに感謝したい。わたしは選手たちに、もう一度、オランダと決勝で戦おうといった」と語った。

 スコットランドが3−0でCIS(旧ソ連)を破ったため、CISは2分1敗となり(スコットランドは1勝2敗)ドイツは1勝1分1敗で2位となりベスト4に残った。スコットランド戦で、負傷者が出たため明らかに戦力ダウンしたドイツが、そのスコットランドによって準決勝進出を助けてもらった。

 わたしの旅をふくめて、サッカーは、なにが起こるかわからない。

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