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北方の巨人たちのワザと力が激突した大型サッカーの魅力
空港のユーロ・クラスのラウンジで
クッキーをひと口いれて、コーヒーを飲む。のどを通る刺激が疲れた頭に少し生気をよみがえらせる。
もう一度搭乗券を確認する。イエーテボリ空港の待合室、SAS(スカンジナビア空港)のビジネスクラスは「ユーロ・クラス」と呼び、空港での特別ルームは清潔で簡素なサービスが気持ちいい。
1992年6月23日朝、わたしは、友人に会うためアムステルダムへ向かうところ。
ヨーロッパ・サッカー選手権は、前日までに決勝進出の2チーム、ドイツとデンマークが決まり、26日のファイナルを残すだけとなっていた。
21日にストックホルムでの準決勝で、ドイツがスウェーデンを3―2で破ったのを見たあと、22日の昼に鉄道でイエーテボリにつき、オランダがデンマークに延長PK戦で敗れるのを見た。そして、この日の朝ホテルをサラ・ホテル・スカンジナビアから市の中心部に近いサラ・ホテル・ユーロップに移り、朝早くに荷物を入れておいて空港までやってきた。
わたしのアムスまでの搭乗機はフィンランド航空(略称AY)841便。出発は10時15分、飛行時間は1時間半。05Aの禁煙席。時間に余裕があるのでコーヒーを飲みながら前日の試合のメモを読みかえし、書き加えることにする。
ラウドルップの早いドリブル
メモのアタマには「両チーム22人のうち身長1b80位以下は3人だけ。1b84以上はデンマークが9人、オランダが6人という"巨人"の対戦。デンマークの勢(いきおい)が前半のリードとなり、オランダの底力が、後半の同点と、延長での猛攻となった。大型サッカーのワザと力の激突は最高のショー」とある。
メモとともに前日のシーンが浮んでくる。開始後1分にデンマークのラウドルップが左サイドをただ一人走り抜け、ボールをとってドリブルでエリア内にはいり、オランダのGKファンブロイケレンがとび出してようやくCKに逃れたのが、このゲームの波乱のはじまり。
ラウドルップは5分に、こんどは右サイドで相手の左のサイドバックデブールのクリアミス(スリップした)を拾って一気に右前へ突進し、クーマンを引きつけて、ファーポストへ高いクロスを送り、長身のラルセンが、ヘディング・シュートを叩きこんだ。
GKファンブロイケレンがシュートを警戒してニアポスト側にいたため、クロスパスに手が届かなかったが、それほど、ラウドルップのドリブルに威力があったといえる。
23分にオランダが同点にする。左のビチュへからのハイクロスをライカールトがヘディングで後方へおとし、ベンカルプが右足のシュートをきめた。
ビチュへからのクロスは、ゆっくりしたボールで、またベルカンプのキックもボールのバウンドをうまく抑えた、コントロール・シュートで、このあたりに、オランダのプレーヤーの技術の高さが、あらわれていた。
オランダのハイテクニック攻撃
1−1と追い付かれてもデンマークの勢いはとまらず、32分に再び1点リードする。
ハーフラインをこえたあたりで左へ展開したボウルセンがドリブルで一人かわし、左サイドからファーポスト側へ大きなクロスパス、第二列のビルフォルトが右外から走りこんでヘディングで中へ。
ラウドルップがこれをヘディングシュートした。
GKファンブロイケレンの前にいたクーマンが頭ではじきかえしたが、これが弱く、しかもゴール前正面をころがる。中央につめていたラルセンが、ペナルティー・エリアにはいったところで、走ってきた勢いをそのままのせて強いシュート、ゴール左下へきめた。
後半にはいるとオランダの動きが早くなり、フリットの突破からチャンスが生まれる。
ミケルスはDFのデブールに代えて190aの長身FWキーフトを投入し、空中戦でも優位に立とうとした。
オランダの一人に対してつねに2人で囲みにいったデンマークの粘りも86分の右CKを止めるのは難しかった。ビチュへの低いライナーをフリットがバックワードのヘディングでニアポストへ中継。
ファンバステンが、このボールをセンター・バックのオルセンにからまれながら、ヒールで後方にのこし、それをライカールトがシュートした。
空中戦の強いデンマークのDF陣に対して低いCKで攻めたのがひとつ、フリットのヘディングでのつなぎのパスをファンバステンがヒールで残した(テレビのスローで見ないとわからぬ早ワザだった)のがふたつ目のポイント。まさにハイテク攻撃だった。
オランダの攻めは延長にはいっても衰えず、デンマークのゴールは何度もピンチにさらされたが、GKシュマイケルの果敢なセーブやDFのカバー、あるいは攻める側のほんの一瞬のタイミングの遅れなどが重なって得点とならず、PK戦でオランダ4に対してデンマーク5、オランダの敗退がきまったのだが……。
メモから目を離し時計を見ると9時40分、搭乗時刻になっていた。