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オランダ日帰り旅行フラットな国のフラットな芝生

ユトランド半島の上空で



 サーモンとエビ、北の海の幸と四種類のチーズに、小さな黒いパン。機内食のスナックを眺めながら、ああ、チーズの国オランダからの帰りなのだと思う。

 1992年6月23日午後9時半、アムステルダムのスキポール空港を30分前に飛び立ったSK(スカンジナビア航空)1556便は、デンマークのユトランド半島にさしかかっていた。

 昨日のいまごろはヨーロッパ選手権の準決勝オランダとデンマークの延長、PK戦の激闘が、終わろうとしていたのだなと思う。その両国代表チームの壮絶な戦いの翌日に、イエーテボリから、アムステルダムへの忙しい日帰りトリップをしている自分になんとなく苦笑する。

 オランダをのぞいてみたいと、この"旅"のはじめから考えていた。

 ひとつにはヨハン・クライフを生み、ファンバステンを育てた土地を、たとえ時間がなくても、その風景だけでも、空気だけでも知りたかったこと、もうひとつは、女子サッカーについてのわたしの友人の意見をききたかったこと。

 わたしがその創設から関わっている神戸フットボールクラブも女子のチームが早くから生まれ、日本リーグに参加した。その女子の日本リーグは、いささか競技人口やレベルに不相応なほどの急激な拡張をした。

 男女同権がすでに"当たり前"になっているヨーロッパ、とくに北ヨーロッパでは、女子のサッカーは、もう"奇異な目"の対象ではなく、バレーボールに男子と女子があるように、ごく普通のことになっている。

 そうした地域のプレーヤーの日本への流入が始まっている折りに、男子のサッカーのレベルがヨーロッパの頂点にあって、女子もまた底力を持つオランダの事情を、手紙や書物だけでなく、実際に、目と耳で確かめておきたかったのだが…。

 


スキポール空港のミーティング・ポイント


 

 この日の朝、10時15分イエーテボリ空港発のフィンランド航空(略称AY)841便でアムスに12時30分に到着した。飛行機を降りると係員がKLM(オランダ航空)のインフォメーションデスクへ行ってくれという。そこへゆくと「あなたの友人のV氏から電話があって、きょうは少し離れたところにいるので空港へはゆけない。あなたの泊まるホテルの名を知らせてもらえば、そこへ連絡するから…といっています」という。
「ホテルには泊まらない。夜の8時15分発のSKでイエーテボリへ帰る予定なんです」と答えると、彼女は、V氏のオフィスに電話をしたあと、「彼は車で40分ほど離れたところにいます。これからすぐ空港へゆくからミーティング・ポイントで待っていてほしい…といっています」という。

 ミーティング・ポイントというのは、頭上にアンブレラのように電飾がついている場所なんです…との説明。なるほどミーティング(会う)ポイント(場所)の標示の下には多くの旅客が待ち合わせしていた。

 忙しさにまぎれて、この日の訪問を文書で送り、互いの予定を確認しておかなかったのがミスだが、V氏の機転と、KLMのサービスのおかげで、とにかく1時間後に彼と会い、空港に近いインドネシア・レストランで、ランチを食べ、スポーツ企画会社を経営する彼のオフィスで女子サッカーの事情をきき、将来、日本の女子の発展のために女子のコーチやプレーヤーの派遣についての話し合いをした。



アムステルダムで100以上の芝生のフィールド



 彼のオフィスのあるフーク・ファホラントはアムステルダムから80`。ロッテルダムから31km、デン・ハーグから21km。ライン河、ムース河の河口港であるロッテルダムと北海を結ぶ新運河があって、その運河の北海側の出口(右岸)にある町。

 この運河に面した小さなレストラン(というより屋台)は、新鮮な魚をナマで食べさせるのが有名で、ドイツあたりからも車でやってくるとか。オフィスでの打ち合わせのあと、彼は車を走らせ、名物の風車をみせ、古い村に案内し、束の間の観光をさせてくれた。


 このほんの短い時間の見物で、強い印象をうけたのは、なんといっても完全に近いフラット(平坦)な国であること。たえず新しい堤防をつくり、国土を生み出す「国づくり」に励んでいること。

 もうひとつの驚きは、そのフラットな市内にあるサッカークラブの芝生のグラウンドがフラットで美しく整備されていることだった。

 クラブハウスとグラウンドだけの小さなクラブが3〜4面の緑のじゅうたんを持っていて、アムステルダムだけで、こうした芝生のサッカー場は100面を超えるという。

 ここしばらくオランダの選手のボールテクニックの高さは、こうしたみごとな芝の上で子供のころから遊ぶ環境にあるのか、とあらためて思う。

 Jリーグを発足させ、2002年のワールドカップへの立候補によって、地方都市にもサッカー場、あるいはサッカー併用のスタジアムをつくる計画があるのはうれしい。しかし、わたしたちが、ようやくスタンドつきの芝生のグラウンドを持つようになるとき、北ヨーロッパは、子供たちにみごとな芝のフィールドをそろえている。

 機内食のオランダのチーズを食べ、スウェーデンのサーモンを口に入れながら、わたしは、あらためて、サッカーの世界の広さと高さを思った。

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