賀川サッカーライブラリー Home > Stories > >デンマーク幸運の2ゴールで欧州の王座に

デンマーク幸運の2ゴールで欧州の王座に

 豊かに並べられたバイキング・スタイルのテーブルから、とりあえずコーヒーとフルーツ・サラダを持って自分のテーブルに運ぶ。

 1992年6月27日、朝9時、サラ・ホテル・ユウロップ。前夜の興奮がつづいて、いささか睡眠不足…、周囲のテーブルにも、同じような顔付きがあった。

 6月10日にはじまった92年ヨーロッパ選手権も、前日、6月26日午後8時15分から、ここイエーテボリのウレッビ競技場で行われた決勝、ドイツ対デンマークで終了した。

 「とうとう終わったナ」

 ひとつの大会、ビックなトーナメントのあとに、いつも感じる淋しさと、ホッとした気分と、そして、いいものを見たという満足とが重なり合った独特の気分のなかで、フルーツ・サラダの冷たい甘さが心地よかった。

 「それにしても、デンマークが勝つとは、それも2−0で…」

ゴール前の空中戦は?

 試合は、デンマークのキックオフではじまり、はじめ15分間にドイツの攻勢がつづいた。

 ドイツのラインアップは、DFがロイター、コーラー、ヘルマー、ブッフバルト。MFがヘスラー、ザマー、エフェンベルグ、ブレーメ、2人のトップはリードレとクリンスマン。

 これに対してデンマークはオルセンをリベロにピエチニクがリードレに、K・ニールセンがクリンスマンに、2トップにマークをおき、シベバエクは、相手の左からのクロスの名手ブレーメを警戒、左のクリストフテはオープンスペースのカバー。MFはイエンセン、ラルセン、ラウドルップ、第一線はボウルセンとビルフォルト。

 デンマーク側が国内リーグの選手6人、外国リーグはGKのシュマイケルをはじめ5人。ドイツは、国内(ブンデスリーガ)5人。イタリア・リーグ6人。身長は
▽188cm以上が、デンマーク5、ドイツ1、▽184cm以上、(デ)3、(ド)3、▽180cm以上、(デ)2、(ド)4

 とくに相手の2トップに対する2人のストッパーが189cm、192cmと上背で、リードレ(179)、クリンスマン(181)よりも10cm高い。ドイツ得意の外からの崩しからのクロスでの空中戦で優位に立とうというところだろう。

 第2列の激しい中盤での追いこみと、この中央部の強さ、それにGKシュマイケルのクロスへの果敢なとび出しが、ドイツのフィニッシュを困難にした。

 記者席から見て、左サイドから右へ攻めるドイツが16分の左FKから、右スローイン、右からのクロスさらに左からのクロスと攻めこんだあと、デンマークがカウンターからチャンスをつかむ。

 シュマイケルのロングキックから、右サイドでボウルセンがキープ、これをコーラーが奪いとって、すぐ前のブレーメにパス、タッチぎわでブレーメが受けたとき、ビルフォルトが果敢にスライディングでボールを奪い、前方へけり出した。記者席からみて、一瞬ファウルと思った。(タックルが足へいった)が笛は鳴らずこのボールをボウルセンがドリブルし、ゴールラインから、後方へもどす。

 ペナルティー・エリアの角あたりへ走りこんできたイエンセンが強シュートすると、ボルはニアポスト側にとびこんだ。


ドイツは選手心の空白



 ドイツの選手たちもブレーメが倒されたときファウルと思ったのかどうか、転がったボールへの反応が遅かった。

 シューターのイエンセンは、代表48試合出場でこれが2点目、この大会でも、シュートチャンスにからんでくるのは上手だが、シュートの角度が今ひとつで、中央寄りからのシュートは左へ出ることが多いのだが、このときは、まさに彼の得意の角度らしく、すばらしいゴールとなった。1−0。

 圧倒的なドイツの攻めに耐えて、18分後に訪れた唯一のチャンスをものにしたデンマークは、それまで、いささか押しこまれていた感じから、にわかに、積極的になる。守りを厚くすることには変わりないが、寄りが鋭くなって、ボールを奪ってからのカウンターも生き生きとしてくる。

 前半の30分を過ぎると赤いシャツのデンマークのサポーターたちの間に「アウフ・ヴィーダー・ゼーン(さようなら)」とドイツ語の唱和がわきあがる。

 “もう、勝負はこちらのものだ、お引きとり下さい"というのだろうか…。

 後半もドイツが攻めデンマークが守る。72分に二度の絶体絶命のピンチを切り抜けたデンマークがラウドルップのドリブルからFKを得て、相手DFのヘディングを拾ってのパスからビルフォルトがノーマークシュートで点をあげてしまった。

 デンマークにツキがあったというべきだが、ドイツの猛攻を防ぎ切った守りの強さ、そしてときおりのカウンターの鋭さは、優勝に値するといえた。

 そんな試合経過をふりかえる、わたしの前に、ロクさんこと高橋英辰氏(Jリーグ技術委員長)があらわれた。

 先輩に聞きたいことがたくさんあった。

↑ このページの先頭に戻る