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改めて感じたセリエAの偉大さ

 カズこと三浦知良がジェノアに加わってくれたお陰で、今秋は日本でもセリエAへの関心が高まり、テレビでもこの世界トップレベルといわれるリーグの放映が増えるという。今回はワールドカップ米国大会で活躍した、セリエA所属の選手やスペインリーグ所属の選手を中心に、ヨーロッパのリーグの偉大さ、濃さを語っていきたい。


サレンコの活躍

 「一人で5得点」──と思わず声が出てしまった。6月28日夜、デトロイトのポンティアック・シルバードーム。一次リーグのB組最終試合ブラジル対スウェーデン戦(1-1)が終わって、メディアセンターに戻ると、同じグループのロシア対カメルーン戦は、なんと6-1でロシアが勝ち、このうち5点をサレンコという選手が決めたと聞かされた。

 長いワールドカップの歴史の中で、1試合で一人が5点を決めたのは初めて。一人が1試合に4得点をしたのは38年の第3回フランス大会以降に9人にて、このうち5人がそれぞれの大会で得点王になっている。

 38年のレオニダス(ブラジル/8得点)、50年大会のアデミール・デ・メネセス(ブラジル/9得点)、54年大会のサンドロ・コチシュ(ハンガリー/11得点)、58年大会のユスト・フォンテーヌ(フランス/13得点)、66年大会のエウゼビオ・ダ・シルバ(ポルトガル/9得点)だ。

 彼らに比べれば、82年以降の得点王はゴール数が少なく、4大会連続して6得点でトップゴールスコアラーになっている。サレンコも、第2戦(スウェーデン戦)での1得点を加えた6得点で、このタイトルを獲得した。一次リーグ終了時では、同じC組のロマーリオ(ブラジル)、ダーリン(スウェーデン)がまだ3点ずつ。D組のストイチコフ(ブルガリア)、バティストゥータ(アルゼンチン)も同じく3得点で、C組のクリンスマン(ドイツ)が4得点という状況だった。

 ウクライナ出身で現在スペインの1部リーグ、ログロニェスに所属しているオレグ・サレンコは69年10月25日生まれの24歳。90年のソ連カップ決勝でハットトリックをした経験があり、スペインリーグでは昨シーズン15得点を決めている。ストライカーとしての意識がとても高い選手だ。

 大会前に調子が出ず、第1戦のブラジル戦では控えでベンチにいて、後半10分にユランに代わって出場。第2戦、第3戦は最初からプレーした。ユランとの交代の理由がサドイリン監督とユランの不仲というのも珍しいが、そのお陰でサレンコは一躍、有名になった。


外国リーグで成長

 このロシア代表チームは22人中12人が外国リーグでプレーし、そのうち6人がスペインリーグに所属している。カメルーン戦でサレンコとともに得点を決めたラドチェンコもサンタンデールの選手だから、このチームの94年大会での7得点(3試合)は、全てスペインリーグの選手があげたことになる。

 ワールドカップの代表といっても、日頃は自国のリーグでなく外国のリーグでプレーしている選手が多く、94年大会のベスト8に入ったチームの選手を所属リーグ別に見ると、8カ国の代表176人のうち、58人が外国のリーグでプレー。4年前のイタリア大会では176人のうち71人もいた。

 国別で見ると、ブラジル11人、イタリア0人、スウェーデン12人、ブルガリア13人、スペイン0人、ルーマニア8人、オランダ8人、ドイツ6人となっている。イタリアとスペイン以外は、外国リーグに所属している選手の多いことが分かる。

 所属先で一番多いのが、イタリアのセリエAで15人、次いでドイツのブンデスリーガとフランスリーグの9人ずつ。スペインリーグが8人でこれに続き、ポルトガルリーグ5人、オランダリーグ3人、ベルギーリーグ3人、スイスリーグ2人、イングランドのプレミア・リーグ2人、スコットランドリーグ1人、トルコリーグ1人となっている。

 94年大会で得点した選手のうち、イタリア、スペイン、ドイツ、フランスの4つのリーグに所属する選手の得点数を合計すると、さすがにセリエAが34得点で最も多い。ユベントスのR・バッジョ、D・バッジョ、ACミランのマッサーロの3人でイタリア代表チームがあげた全得点の8点を生んだ。

 オランダは8得点中7点をインテルのベルカンプとヨンク、フォッジァのロイ、ラツィオのビンターで決め、ルーマニアの10得点は8得点がACミランのラドチオウとブレッシアのハジ、ジェノアのペトレスクで叩き出した。アルゼンチンも、8得点のうち7得点をフィオレンティーナのバティストゥータとASローマのカニーヒア、バルボの3人であげている。

 優勝したブラジルは、スペインリーグのロマーリオ(バルセロナ)とベベット(ラ・コルーニャ)、フランスリーグのライー(パリSG)の3人で9得点をマークした。3位となったスウェーデンも、フランスリーグのK・アンデション(リール)、ブンデスリーガのダーリン(ボルシアMG)、セリエAのブロリン(パルマ)の3人で、14点のうち12得点を稼いでいる。

 リーグ側だけでなくクラブ側から見ると、最高得点はバルセロナの16得点。サレンコと並んで得点王となったストイチコフと、ロマーリオの2人がいる上に、スペイン代表が4人もいる。ヨーロッパ・チャンピオンズカップでACミランに0-4と完敗したバルセロナだが、ワールドカップではそのACミランの5得点を大きく引き離したことになる。


美しくなったブロリン

 ヨーロッパの4つのリーグに所属している選手が、94年大会で記録した全得点(141得点)のうち94得点(セリエA34得点、スペインリーグ32得点、ブンデスリーガ15得点、フランスリーグ13得点)、つまり66.6%を決めたことになる。現在のワールドカップは、こうした選手を抜きにしては考えられない。

 これを逆の味方で眺めると、セリエAでもスペインリーグでも、ワールドカップで活躍するストライカーが、各試合のエンターテイメントとしての楽しみを高めているのが分かる。だが、外国からの移籍選手がそのほとんどだとすると、生え抜きのストライカーが育つのに影響が出るのではないか。

 セリエAの各チームが外国の優れたストライカーを持つことで、チームを強化し、サポーターを喜ばせる試合ができるのは良い。しかし、それによって国内の選手が出番を減らし、経験を積む機会を失って、伸び盛りの大切な時期を延ばしてしまうことはないだろうか。

 90年のワールドカップでイタリア代表は、大会が始まってから現れたスキラッチの得点能力によって総合力が高まった。今大会では、2人のバッジョによって辛うじて決勝まで残ったけれど、アリゴ・サッキはACミランで表現した魅力あるサッカーを代表チームで描くことはできなかった。クラブチームならリラで手に入る攻撃の才能が、代表チームでは入手困難だったのだ。

 スペインは長い間、レアル・マドリーやバルセロナなどのクラブチームが高い人気を保っていたが、代表チームとなるとこれまで華々しい活躍は見せていなかった。今回イタリアとの準決勝で敗退したが、やはり得点できる素材という点に問題があったようだ。

 こうしたハイレベルのリーグを持つ国には、それぞれ個有の問題もあるだろうが、同時に世界中のサッカー好きにとって、各国の選手が見られるのは誠に有り難い。優勝したブラジルのキャプテン、ドゥンガが中盤での激しいプレーで好守に責任を果たしていたのは、やはりブンデスリーガの激しさを経験してきたことが大きかったのだろう。

 スウェーデン代表でありセリエAでプレーするブロリンは、この大会で従来の枠から一歩抜け出した一人だが、3位決定戦で見せたプレーの質の高さは、相手のブルガリアの疲労が大きかった点を差し引いても素晴らしいものだった。

 69年11月29日生まれ。サレンコと同じ24歳のトマス・ブロリンは、スウェーデン人としては体格は小さい方だが、その俊敏な動き、ボールテクニックの高さで若いうちから注目されていた選手だった。

 90年のイタリア・ワールドカップで20歳だった彼はブラジルから1得点を奪い、92年のヨーロッパ選手権では攻撃の組み立て役になっていた。

 今度の大会でもブロリンは、K・アンデション、ダーリン(ラルソン)のツー・トップと、シュバルツ、テルンの2人の守備的MFの間にいてゲームメイクを担当した。

 2年前と変わったのは、ボールを扱うフォームが美しくなったことだ。これはセリエAで揉まれたことの成果だろう。速さが前面に出ていたブロリンが美しくなったことで、攻撃でのパスの受け渡しが良くなり、そこでの無駄のなさ、判断の早さ、正確さにつながった。このブロリンの活躍に、改めてセリエAの魅力を感じさせられた。

 ヨーロッパのトップリーグ抜きでは、今やワールドカップを語ることはできなくなっている。そのセリエAのカズの活躍とステップアップを期待したい。

(サッカーダイジェスト 1994年9/21号より)

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