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K・アンデション──古豪を3位に導いた男

 ロマーリオのような小柄なプレーヤーが細かいフットワークで大型ディフェンダーを抜き去るのも魅力なら、長身選手の高さを生かした豪快なヘディングや、リーチを生かしてのシュートもまた、サッカーの面白さの一つだ。スウェーデンのケネット・アンデションは後者の代表格として、この米国大会で光彩を放ったプレーヤーだ。


92年欧州選手権での驚き

 スウェーデンの一次リーグの相手は、まず最初にアフリカの雄カメルーン、次いでロシア、そして第3戦がブラジルとなっていた。

 カメルーン戦は2-2の引き分け。中盤のつなぎ方、展開、フィニッシュまでのパスもよく、前半、左FKからのヘディングシュートで先制した。後半、1-2とリードされてから、ラルソンのミドルシュートがバーに当たり、そのこぼれ球をダーリンが決めた。

 この2つのゴールは、いずれもスウェーデンらしい攻撃の型から生まれたものであり、いわば得意技でのゴールだった。アフリカ人特有の動きの速さで、守備の小さな穴を突かれて2点を奪われはしたが、スベンソン監督は悪い気はしなかっただろう。

 K・アンデションは、この試合スタートからではなく、75分にインゲソンとの交代で出ている。中盤右サイドを担当する190センチのインゲソンと193センチのK・アンデションの2枚の190センチプレーヤーが揃うのは第2戦からとなった。

 私が初めて彼を見たのは92年の欧州選手権のときだった。開催国の面目にかけて好成績をと願うスベンソン監督は、テルン(MF)、シュバルツ(MF)、ブロリン(FW)、ダーリン(FW)、インゲソン(MF)、K・アンデションら67、68年生まれの若い力(ブロリンは69年生まれ)に期待をかけていた。

 K・アンデションはフランス戦(1-1)で得点こそなかったが、左CKで彼の動きにフランスDFがつられたスキにエリクソンがヘディングを決めたのだった。

 この大会で驚いたのはスウェーデン、デンマークの185センチ以上の長身選手の下半身が安定していて、ボールテクニックも上手かったことだ。

 その4年前にオランダのファン・バステン・フリット、ライカールト達の「高さ」に目を見張っていた私は、改めて北欧の巨人達の進歩を知った。

 K・アンデションは、ゆったりとは見えるがリーチを生かした反動が得意で、反転したままのキックでパスやシュートをするとき、相手DFは足をいっぱい伸ばしても防げないことが多かった。

 フランスと引き分け、デンマークを破り、イングランドを倒したスウェーデンは、準決勝でドイツと当たって2-3で敗れる。しかし、1-3とリードされてからの2点目は、後方からの長いロビングに飛び出したGKイルクナーの前で勝負したジャンプヘッドで決める、まさにファインゴールだった。イルクナーにすれば、腕を伸ばして叩き出せる目算はあったはずだが、スウェーデンの高さはそれを上回り、実に見事なヘディングシュートだった。

 ワールドカップ第2戦のロシア戦はPKで先攻されてしまうが、38分にダーリンがPKを得る。これをブロリンがきっちり決めて1-1とした。このPKは右スローインからK・アンデションがゴールに背を向けたまま、浮かせたボールをオーバーヘッドでDFラインの裏へパスを出すことから生まれた。

 このボールにダーリンが飛び込んだとき、相手DFはダーリンの肘を掴んだ。ダーリンの反応の早さにロシアDFが付いていけなかったのだが、K・アンデションのパスもまた相手の意表を突くものだった。私は彼のオーバーヘッド・パスを見ながら、浮いているボールのポイントが高いために、ゴール前へ出てくるボールが速く落ちるのだろうと想像した。

 ダーリンは相手を背にしたプレーが上手い。ロシアのゴルルコビッチは後半が始まってすぐ、ダーリンの足を後方から蹴ってイエローカードを出された。彼は前半の開始早々にもイエローカードを出されていて、2枚目となり退場。ロシアは10人での戦いになってしまう。

 この前半のゴルルコビッチの反則は、ヘディングのジャンプを失敗して左手でボールを止めた(意識的に手を使った)ためだが、このとき彼はK・アンデションの上背を警戒するあまり、ジャンプのタイミングをミスしてしまった。自分より身長が高く、しかもヘディングの強い相手に対してDFは神経を使うものだが、K・アンデションは、そういう点でも味方を助けていた。

 10人となった相手から、スウェーデンは60分にダーリンのダイビングヘッドで2点目。82分にもダーリンのヘッドで3点目をあげるが、この3点目はK・アンデションが後方からのパスを追って相手DFに走り勝ち、ダイレクトで中へ送ったボールから生まれたものだった。走りながら、右足のリーチを生かしてのダイレクトパスと、それに合わせたダーリンのヘディングシュートは、大会のビューティフルゴールの一つといえた。


最初の輝きはブラジル戦

 この大会でK・アンデションのゴールが見られるのはブラジル戦からだった。

 警告2枚で出場できないストライカーのダーリンに代わって、堅守のブラジルを驚かせたのは23分、K・アンデションが決めた得点だ。右後方からのパスを胸で止めて、浮いているボールを右足で軽く当てると、ボールはタファレルを抜いてネットへ…。ここでも、彼の立ち足の強さ、長い足のリーチのキックが生きていた。

 この試合は1-1の引き分けに終わった。ブラジルがB組の首位、スウェーデンが2位で二次ステージへ進むのだが、ブラジルはここで得た苦い教訓が、次の機会に生きることになる。

 二次ステージの1回戦、サウジアラビア戦の会場はダラス。暑さと、湿気、しかも12時キックオフという過酷な環境下での試合だ。これはスウェーデンに不利と誰もが思っていた。ところが、早い時間(5分)にスウェーデンがダーリンのヘディングでリードする。K・アンデションの左サイドから右足で送った深めのクロスが、ダーリンに見事に合った。

 K・アンデションはこのアシストに続いて、50分には自らのゴールで差を広げる。P・アンデションからのパスを受け、左へドリブルしてエリアいっぱいからのシュートを決めたのだ。

 85分にアル・ゲシェヤンの得点で1点差に詰め寄られたが、2分後にまたもK・アンデションが3点目を加え、サウジアラビアを突き放した。

 このゴールは、今大会のスウェーデンを象徴するものだ。相手DFがパスをかわすのをダーリンが追い込み、更にK・アンデションのプレスによる相手のミスからダーリンが奪う。一旦後方のシュバルツにボールを戻し、シュバルツ→ダーリン→K・アンデションとつないで、K・アンデションの右足シュートが左ポストに当たってゴールへと入った。相手ボールを奪ってからの展開の巧さとフィニッシュの強さが、このプレーによく現れていた。


豪快なアーセナル・ゴール

 準々決勝のルーマニア戦は1-1で延長に入る。延長前半11分に2-1とリードされ、しかも12分にはシュバルツが退場処分となるなど、圧倒的に不利な中で同点ゴールを決め、辛うじてPK戦に持ち込んだ。しかもPK戦を5-4で勝つという、スリル満点の試合だった。

 スウェーデンの1点目はFKを直接狙わずに、相手のカベの右側を縦に通し、カベの裏にいたブロリンが走り込んでシュートを決めたトリックプレーだった。K・アンデションの決めた2点目(同点ゴール)は、ニルソンの右後方からの高いロビングを、相手GKプルネアのフィスティングより早く、ジャンプヘッドでとらえた力と高さの得点だった。

 PK戦はスウェーデンの一番手ミルドのシュートがバーを越えてしまい、いきなり劣勢となったが、2人目のK・アンデションが決めたのでイレブンは落ち着きを取り戻した。そしてルーマニアの4人目のキックをGKラベリが止め、6人目まで進んだが、最後はラベリがベロデディチのシュートを防いで5-4で勝ったのだった。

 準決勝は再びブラジルと顔を合わせたが、中盤のシュバルツを欠いた上に、63分にはテルンがレッドカードを受けたのが大きく響き、K・アンデションにもチャンスはほとんど回らず0-1で敗れた。

 しかし、中3日休んでの3位決定戦でスウェーデンは、自分達のワールドカップのフィナーレを4-0という会心の勝利で飾る。テルンは抜けていたがシュバルツが復帰し、ミルドもようやく中盤の動きに馴れ、攻撃のリーダーとなったラルソンも彼の特徴であるスピードを生かせるようになっていた。

 そして何よりブロリンが最高のプレーを演じ、チームの攻撃の組立て役としてスベンソン監督を驚かせるほどの活躍を見せた。ブロリンの判断の早さと的確さ、パスの強弱の巧さ、タイミングの良さは、疲労気味のブルガリア選手には防ぐことは難しかった。

 K・アンデションはチームの4点目、つまりワールドカップでのチームの15点目を記録したのだが、シュバルツの左からのクロスに併せた彼のヘディングは、インターセプトしようとするGKの前へ飛び込んだ豪快な「アーセナル・ゴール」だった。

 今回の3位は58年大会の準優勝に比べてもひけを取らない立派な成績──とはスベンソン監督の言葉だが、スウェーデンはこの大会でも最もよく組織されたチームとの評価だった。総得点15点のうち、3分の1の5点を決めた、このK・アンデションにも当然、各国クラブの首脳の目が集まるだろう。私達はしばらく、この193センチのストライカーを眺め続けていたい。

(サッカーダイジェスト 1994年11/2号より)

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