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1992年トヨタカップ「同点ゴールへのセレーゾの関与」

 サンパウロの同点ゴールは27分、つまり、リードされてから15分後に生まれたが、これはミッドフィールド、ハーフラインから15メートルくらい自陣に入ったところで、相手MFのパスミスを奪ってからの速い攻めだった。  右サイドに開いたバルセロナのエウゼビオがグァルディオラからのパスを受けて、ダイレクトでアモーロに渡そうとしたが、高く上がってしまった。これを見逃さなかったピンタードは、ヘディングでカットし、さらにここのボールをトニーニョ・セレーゾが頭で前方のパリーニャに落としたところが一つのポイントだった(このプレーに表れたように、この試合でのセレーゾは、中盤での“目立ちはしないが、効果的な”パスを再三見せた。相手のボールを奪った味方からパスを受けて、セレーゾが次に出すパスは、その次の展開がいっそう有利になる下地を作るものが多い。ときおりズバリと相手DFラインを破るスルーパスとともに、いわゆる“玄人(くろうと)好み”のプレーだった。
 セレーゾからのヘディングによるパスを受けたパリーニャは、奪い返そうとしたエウゼビオをタテに抜いて、ミューレルの前方へパスを送った。ミューレルは、持ち前のスピードで追走するフェレールより前に出て、ペナルティエリア左かどあたりで、左足でボールを止めた。この急激なストップに、全速で走っていたフェレールが立ち止まったときには、ミューレルは右足でボールを中へ送れる体勢。その右足のバックスイングにつられて、フェレールはボールのコースを押さえようと懸命に足を出す。ミューレルの右足はボールをキックするのではなく、抱え込むように切り返す。この疾走とストップと切り返しで、フェレールの努力はすべて潰れ、ミューレルの左足からゴールマウスまで、すっかりパスのコースが開いてしまう。普通なら、このコースにいるはずのクーマンも、切り返しにつられてコースに戻ることはできない。そのゴールマウスにはライーが入ってきていた。
 ミューレルの左足インサイドで蹴られたボールは、ライーの身体へ、それもモモの高さあたりに飛んだ。ビチヒェを右背後にしながらライーは、とっさに身を投げ出すようにダイブ。ボールはその腹かモモに当たって方向を変え、GKスビサレータの右を抜け、ゴールに入った。
 相手のミスパスを拾ってからの展開のなかで、パスはパリーニャからミューレル、ミューレルからライーへと2本。パリーニャのドリブル、ミューレルの疾走と停止とターン(ドリブル)が入って、最後はライーの身のこなし、と、まことにブラジル選手特有の、それも一人ひとりの個性的なプレーが結実したゴールだった。

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