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10人のドイツを圧倒しクロアチア、3ー0の勝利

 余裕のある、いかにもビューティフル・ゴールを重ねての五輪最終予選はまことに楽しいシリーズだった。

 いささか見当違いと思えるほどの過度な期待に対して、芽を出せないままとなった柳沢は、まことに気の毒だったが、多くの選手たちが予選シリーズで力を伸ばし、チームワークが一段上に上がったのはすばらしい。中田英寿がチームに合流して、高いレベルのプレーを見せてくれたおかげで、多くのファンも指導者も、日本選手の個々の技術や体の強さや判断がどこまで通用するかを、それぞれの目で確かめることができたと思う。

 さて、98年のフランス・ワールドカップの旅はいよいよ終盤。新しい国、クロアチアのテクニシャンたちが準々決勝で、伝統ある“超大国”ドイツを倒すところです。


ラディッチの守り

 この大会でドイツを見てきた者には、オヤッと思うほどーいや失礼、ドイツ・ファンなら“これぞドイツ”と言うだろうードイツは鋭い動きを開始早々から見せた。ストイコビッチのユーゴのかき回されたグループリーグの試合、メキシコに苦しめられたノックアウト戦の1回戦ーそれらとは格段の早さ、激しさだった。そのドイツの攻め込みを、クロアチアはしっかりと受け止める。受け止めておいて、右から左から中央からと、巧みにカウンターへ転じる。

 独立国となって、初めてビッグな国際舞台へ登場した96年欧州選手権では、攻撃力の高さとともに守りの弱体が指摘されたが、今回は日本との試合を含めたグループリーグでも、明らかに守備の強化が目立っていた。

 そのなかで、特にこの日輝いたのはGKのラディッチ。かつてのイタリア代表の主将だったゾフと同じように、オフラインでの守りを評価されている36歳のベテランは、31分のビアホフの強いヘディング・シュートが足下を襲うのを防ぎ、そのこぼれ球を倒れたままで右足でかき出すようにクリアした。

 攻勢を続けたドイツに落とし穴があった。40分にベアンスがシュケルの動きを止めたのを悪質と見て、ノルウェーのペデルセン主審はレッドカードを出したのだった。

 このファウルが生まれた場面は、ドイツが攻め、左タッチラインのへスラーの長いスローインからのルーズボールをDFがクリアし、エリア左角あたりでこのボールを取ったボバンが高いボールをハーフウェー・ラインへ送ってから。

 素早く左前へ動き出したシュケルがハーフウェー・ラインを越え、40メートルあたりでボールを取って右に方向を変えたとき、走りこんできたベアンスが体をぶつけてシュケルのコースを妨げた。その激しい体当たりにシュケルは、もんどりうって、4、5回ターフに転がった。

 スロービデオで見たベアンスのプレーは理解に苦しむ。受けた瞬間を狙うにしてはいささか距離が遠かったから、間合いを保ってスピードを鈍らせる手は考えなかったのか…。彼はこの試合で、ドリブルで3人を抜いて攻め上がり、有能なフルバックと言われる資質を見せたのに…。一発退場は厳し過ぎるとの声もあったが、出されてしまえばチームの大損失。


攻勢一変、クロアチア先制

 右のDFを失ったドイツは、ハイリッヒをディフェンス・ラインに下げ、クリンスマンが中盤へ引いて、トップはビアホフ1人となる。

 一方のクロアチアはチャンスと見て、一気に全体を前掛かりにする。そしてロスタイムに入って先制ゴールを奪った。

 自陣でマテウスのボールを取ったビリッチが前方へ送り、スタニッチがドリブルして中へ、そして左サイトを走り上がってきたヤルニにパス。

 ヤルニはドイツのディフェンス・ラインの前方に生まれた広いスペースでゆっくりキープし、エリア外3メートルから左足シュートをゴール右下、ポストぎりぎりに決めた。

 スタニッチの横を駆け抜けたボバン、右に大きく開いたシュケルにドイツDFの警戒が集まり、さらに中央へ走り込んで来たアサノビッチをハインリッヒがマークする間に、スタニッチが中へドリブルして空白ゾーンのヤルニに渡したークロアチア人らしいドリブルと、仲間のフェイクを利用しての巧みなゴール。ヤルニの左足シュートも強烈で、そのコースに入ろうとしたハインリッヒが体をひねって弾道を避けたほどだった。



 1点をリードされたドイツは10人でも攻めなければならない。へスラーの右からのクロスで得たタルナートの左足CKをクリンスマンが頭でつなぎ、ビアホフがボレーシュートしたが、今度もラディッチが正面にいて防いだ。

 79分までは互角の攻守。ドイツはへスラーに代えてキルステンを投入、さらにハーマンをマーシャルに代えて攻めを強化したが、80分にブラオビッチの右からのシュートが決まってクロアチアが2点目。中盤でのビアホフのヘディング・パスがクロアチアに渡り、ボバンが右に振ったボールをブラオビッチが受けたときにはノーマーク。文句なしのシュートを送り込んだ。



 ロングボールで反撃に出るドイツにとどめを刺したのはシュケル。FKのハイボールからシュティマッチがヘッドでつなぎ、シュケルがドリブルで食い込んでシュートを決めてしまった。

 0ー3でドイツは敗れた。


(サッカーマガジン 1999年12/8号より)

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