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55億ペソのプローデ

 相手のコースへ

 ソ連の若いナショナル・チーム(11月19日、23、26日、対日本代表3連戦)は都合で1試合観戦だけだったが、ソ連の若手がちゃんと基礎的な技術をもっていることに感心した。

たとえば、「角度のあるキック」。スピードをあげてドリブルしながら、真横へのパス、つまり90度、あるいは、それよりなお大きい角度でボールをけれること。だから、斜め、または横にドリブルしながら、日本のFBの間を通すスルーパスが出せる。

あるいはまた「ドリブルで相手を抜いたらすぐ相手の背後にはいること」、はずされて反転し、追いかける相手のコースにはいってくることなど・・・・・・。こういう簡単で、試合中に必要なプレーは、若いうちに身につけておきたいものだ。

こんどベースボール・マガジン社から発売された別冊サッカー・マガジン『ワールドクラスの技術』の写真のなかでも、よい選手は基礎的なことを、きちんとやっている。


 霧のはじまり
 
「きょうはボクの生涯で最良の日のひとつでした。ありがとう」6月12日、アンデス山中への小旅行をすませ、すでに暗くなったメンドーサ空港へ着いたのが午後6時40分。通訳のイグレシアス氏らと、あわただしい別れのあいさつをして、アルゼンチン航空(AR)553便に乗る。

 午後7時15分メンドーサ発のこの便はブエノスアイレス上空へ来てから、ずいぶん着陸に手間どった。ラプラタ河岸の空港アエロパルケは霧のために着陸不可能となり、国際線用のエセイサ空港におろされた。

 6月にはいって、いきなり寒い日が続いていたのが、中旬になって寒さがゆるんだ。わたしのアンデス小旅行は、冬とは思えぬ青い空で、しかも、寒くもなしという恵まれた条件だったが、それはブエノスイアイレスでは、気温上昇に霧を伴いはじめたらしい。


 プローデ
 
 機内で配られた新聞にプローデの記事が載っていたので、プレスセンターへ確かめに行く。

プローデというのは、ご存じの“サッカーくじ”。イングランドでいうフットボールプール、イタリアのトトカルチョだ。ふだんから週末の13試合の勝ちと引き分けを当てる仕組みで、ワールドカップでは1次リーグ合計24試合のうち、決められた13試合に投票する。

投票用紙はロッテリヤ(くじ発売所)で1枚3500ペソ(約1000円)で売っている。5月末が締め切りで6月2日付けのブエノスアイレス・ヘラルド紙によると、このワールドカップ・プローデの応募者は181万7740人、払い込みは54億5320万ペソということだった。

 13試合は別表のとおりで、わたしも1枚だけ買っていたが、2番目のイタリア―フランスを引き分けと見たのをはじめ、ずいぶん予想は狂っていた。この番狂わせの多い13試合を全部当てた人が、コルドバとブエノスアイレスとメンドーサに、1人ずついたのだから恐れ入る。なかにネストル・ダニエル・ヒソルフィという13歳の少年がいて、新聞に一家の写真が大きく載っていた。1位賞金が日本円で約1億5000万円にあたるのだが、面白かったのはこの賞金の単位、新聞によっては100倍大きい旧ペソで書くのがあって、はじめのうちは計算できず困ったものだ。なんでも、新旧ペソの切り替え後も、デカイ話のときは旧ペソでいう(より話をデカくするため)こともあるとか。


 アルゼンチンとイタリア

 夜のプレスセンター、プローデの記事を読んでくれた通訳のお嬢さんたちが、一段落したところで、こちらに聞く。
「アルゼンチン代表チームをどう思う。2次リーグも勝てるだろうか」

彼女たちは、1次リーグ最終戦(対イタリア、6月10日)の敗戦が、かなりこたえたらしい。そこでこう答える。
「1次リーグのはじめの相手、ハンガリーとフランスは、どちらも守りがちょっと粗雑だった。アルゼンチンも、守りはあまりいいとは思えないが、攻めて、点を取ることでこの2者には勝った。イタリアはおそらくブラジルとともに、この大会で、1番守備のいいチームだろう。それにイタリアは得失点の上で、引き分けてもよかったから、彼らには思いどおりの展開ができた。あの試合ではイタリアの選手たちは、まるで35歳の主婦のごとく落ち着いていたのに、アルゼンチンは18歳の娘のように純心な攻撃だった。それにルーケが欠場したので、ケンペスが持ち味を出せなくなったのも響いたネ」

 アルゼンチンに来て、アルゼンチンの人たちにサッカーを語る不思議さを思いながら、わたしはイタリアFBの網の中に閉じ込められたケンペスを、メノッティ監督がどのように打開するか、ケンペスが自分で、どのように切り開くかに興味をもった。

(サッカーマガジン 79年1月10日号)

     プローデの指定13試合
1.西ドイツ ― ポーランド
2.フランス ― イタリア
3.アルゼンチン ― ハンガリー
4.チュニジア ― メキシコ
5.スペイン ― オーストリア
6.スウェーデン ― ブラジル
7.フランス ― アルゼンチン
8.イタリア ― ハンガリー
9.ブラジル ― スペイン
10.イタリア ― アルゼンチン
11.スウェーデン ― スペイン
12.ペルー ― イラン
13.スコットランド ― オランダ
 

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