賀川サッカーライブラリー Home > Stories > >南米勢のボールタッチとインパクトは?

南米勢のボールタッチとインパクトは?

 13年目の釜本

 大阪での日本リーグ開幕戦、ヤンマー−新日鉄(4月1日・長居)の後半11分、新人の川口と交代し、フィールドへはいる釜本と、彼の登場で形勢がガラリと変わってヤンマーが攻め込むのを見ながら、釜本が日本リーグに初登場した1967年4月9日の長居(対豊田織機)を思い出していた。もちろん、あのときはキックオフからの出場だった。そして、前半中ごろにヘディングで同点ゴールを決めて仲間を引っ張った(3−2で勝ち)のだった。13年目のシーズンのこの日、彼は同じ南側ゴールでの右CKから、吉村の短いライナーを額で方向をかえ、ゴール正面の今村に渡して、唯一の得点のアシストを記録した。

 まる12年の年月は、彼の体や技術を変えはしたが、得点への執ような意欲、そして、額であれ、足の甲(インステップ)であれ、インサイドであれ、ボールを捕えてたたく強さとうまさには、いまも感嘆のほかはない。楽なスイングで出すクロスパスや、鋭く速い振りでけるシュート。35歳の彼の“この部分”を賞味するだけでも、競技場へ通う値うちは残されている。


 ブラジルの速い変化球

 1978年6月22日、ブエノスアイレスのプレスセンターのスナックで、私は前日のゲームを反すうしていた。6月1日に始まったワールドカップも、21日で2次リーグも終わり、大会は24日の3位決定戦と25日の決勝戦を残すだけとなっていた。

 そう、2次リーグ最終日は、誠に壮烈な試合ばかりだった。午後、リバープレートでオランダの長蹴力を満喫したと思ったら、夕方、メンドーサから送られてきたテレビの画面では、ブラジルの強蹴力にあっけにとられた。ポーランドの攻守もまたすばらしかったのに、それをねじ伏せたブラジルのプレー、ことにネリーニョ、ディルセウという2人の強シューターのそれぞれの右足、左足から繰り出すスピードある変化球が試合を決定した。

 右利きのネリーニョは、このポーランド戦前半の中ごろまでに4度FKをけった。最初は左斜め18メートル、相手選手のカベを迂回し、カーブがかかって右ポスト内側へとび込む直接ゴール。2本目の25メートル(左斜め)は右アウトサイドのスライスで、右からゴールマウスへ走り込んだジウにピタリと合わせた(オフサイド)。3本目は右タッチ際40メートル。長いクロスをペナルティーエリア左内側のロベルトへ送ってシュートさせた。4本目の右35メートルはドライブショットで直接狙って、わずかにバーを越した。どれもクセダマで速く、相手には防ぎにくい。

 ディルセウの、2次リーグ、対ペルー戦で3歩の助走でけったFKと、左斜めからの中距離のドリブルシュートに私は強い印象を受けていた。このポーランド戦では、3点目のもととなる右ポストへ当てる強いシュートを放っている。右利きと左利きの強シューターがHBとFBにいるため、FKもずいぶん手がこんでいて、それを見るだけでも、ブラジルに楽しみがわいてきた。


 ベルトーニのドリブル  

 夜の部のアルゼンチンはもっとすごかった。4点差で勝たなければ決勝へ進めないというハンディを背負って、6点を奪った攻撃意欲には、頭を下げるだけだ。

 このアルゼンチンのプレーで、ベルトーニが右前へドリブルして出たときに、右足の内側の先端と外側の先端を巧みに使って、左へゆくと見せかけ右へ抜いたのが印象に残った。ボールの上をまたぐ、いわゆるマシューズ型でなく、足の先端の内、外の使い分けが面白かった。そして、それは昨年見た、セルジオ越後が子供たちに模範を示したボールタッチと通ずるものがあったのが、よけいに興味をひいた。


 カメラ席の割り当て

 スナックでメモを整理し終わって、上のプレスルームへ上がる。掲示を見ると、決勝戦、3位決定戦のカメラマン席の割り当てをするとある。

 記事を書く私たちは、スタジアムにはいって席に机さえあれば、まずなんとかなるが、カメラマンはよい位置をとりたいからこういう大きな大会はたいへんだ。

 前回の西ドイツはゴール後ろ、つまりフィールドへ降りるカメラマンは40人に制限した。今回は、1つのゴール裏に40人、合計80人に増やし、そのかわり、きまった位置から動かぬことと、決められた。決勝は、仮設スタンドをトラックとスタンドの間に設け、ゴールの後ろも10人ずつ増やした。それでも、地元紙優先、ついで出場国となるから、チームを送り込んでいない日本からきている7人のカメラマンは分が悪い。結局ゴール裏は2人だけ。仮設サイドスタンド2人の割り当てとなっていた。

*   *

 今度の大会での私の狙いの1つは連続写真によるプレーの解明があった。一流選手のボールプレー、対敵動作をカメラアイによって分解し、彼らとボールの接点を眺め、そこから、その選手のプレーの原点を見たかった。

 ネリーニョの、あの、ドライブがかかり、しかも外へ(野球のシュート気味に)曲がるシュートのインパクト――ディルセウは?ケンペスは?“そうだ、富越君や、松本君、北川君たち、サッカー・マガジンの3人のカメラマンともう1度話し合わなくては”。

 大会がフィナーレに近づくという寂しさとは別に、カメラのプロフェッショナルに対する期待で、私にはまた新しい興奮がわいてくるのだった。

(サッカーマガジン 79年5月25日号)

↑ このページの先頭に戻る