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グッズは楽しい記念品

 西ドイツで開かれた74年のW杯。「あれっ、こんなところにドイツ代表チームがいる」と驚いたのは、西ドイツ代表の第1戦を見ようとベルリンのオリンピッシェ・スタジオンに向かって歩いているときだった。人波の中に、白いシャツ・黒いパンツの西ドイツ代表のユニホーム姿が混じっているのを見つけたからだ。
 それは代表選手のユニホームを着たファンたちだった。選手の名前入りのユニホームが市販されるようになったのは、ロイヤルティ(使用料)という商売が成り立つようになってからだろう。W杯で大会マークを使った商品が大々的に売り出されたのは、この西ドイツ大会からだった。
 「皇帝」ベッケン・バウアーらをモデルにしたとされる大会マスコット「チップ・アンド・タップ」のグッズがやたら氾濫し、ポルノショップのショーウインドーにまで飾ってあった。そしてそれらのグッズが、決勝の翌日にガタッと値下げしたのにもまた驚いた。
 それからしばらく、W杯取材の旅では、Tシャツをはじめ、土産品は大会の終盤になってから買うことにした。だが、物によっては売り切れることもあり、また前回の98年のフランス大会ではパリの目抜き・バンドーム広場あたりでは値下げしないところもあって、結局は欲しい物はそのときに買ってしまうことになった。
 我が家には、記念切手や記念硬貨、Tシャツ、ウェア類といった定番ものがあるが、その中にこんなドイツ語で書かれたTシャツがある。「DEUTSCHE FANS GEGEN GEWALT」(ドイツのファンは暴力に反対する)。フランス語、英語でも同じメッセージが併記されてあり、その下には、「DEUTSCHER FUSS BALL-BUND」(ドイツ・サッカー協会)とある。
 フランス大会の期間中、ボランティアが無料で配っていたものだ。この大会では、ネオナチの一派が暴れて、フランス人警官が重傷を負った事件があった。Tシャツはそれに対するドイツ協会のメッセージだった。
 グッズは楽しいスーベニール(記念品)。大会は平穏であることが何よりだ。

(朝日新聞 2001年10月30日)

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