賀川サッカーライブラリー Home > Stories > >期待したい地方独自色

期待したい地方独自色

 今から20年前、スペインで開かれた第12回サッカー・ワールドカップ(W杯)は、参加チーム16から24に増えた。運営は必ずしも満点とはいかなかったが、風土の多様さとその土地の人たちのハートが、観戦に訪れる人たちや、メディアに伝わり、長く心に残る大会となった。
 サッカーの盛んなところだけに当然、14都市(17会場)それぞれが立派な競技場を持っている。だが、単にそこでサッカーの試合をするだけでなく、開催都市それぞれが独自に、さまざまな催しや祭り、文化行事を開き、大会を盛り上げ、同時に自らの町をアピールした。
 その一つが、大西洋に面したバスク地方の中心地ビルバオ(スペインサッカーリーグの強豪、アトレチコ・ビルバオの本拠)で、「エキスポ・バスク」(バスク博)が開かれていた。
 もともとこうざんのあるこうぎょうとしで、サッカーも鉱山で働くイギリス人技師らによって始められ、早くから普及した。バスク博では、機械類や手芸、食品、電気、繊維製品などの物産が並び、カンタブリア山地の南斜面で採れるブドウ酒が試飲できるなど盛りだくさんの内容だった。
 ビルバオが今も強く印象に残っているのは、イングランドのロブソンが、フランス戦で開始27秒後の最短時間ゴールを決めたからだけではなかったのだ。
 ほかにも、地中海側のアリカンテでは、フォゲレスと呼ばれる祭りが開かれていたし、マドリードでは野外劇「ドンファン」を楽しむことができた。
 こうした地方色を表すものとして、ポスターがある。
 この年の大会の公式のものは大家ミロの作品だったが、それとは別に14都市のポスターは、ウエストナリー社が欧州のデザイナーたちに依頼して作った。それぞれ町の特色がよく出ていた。とても面白く、私は今も大切に持っている。
 02年W杯の日本の各開催都市のポスターは、いずれも日比野克彦さんが作った。1人の高名なデザイナーに全10都市を描いてもらうのも一つのやり方だが、みずからの「かんばん」をそれぞれの都市の意向で作るという発想はなかったのだろうか。地方に住む私には、そのあたりが不思議なところだ。

(朝日新聞 2002年2月5日)

↑ このページの先頭に戻る