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スリムなベベート

 アルゼンチン、ドイツとの2つの親善試合で私が注目していたのはFWのベベート。1992年のキリンカップでバスコ・ダ・ガマとともに来日したことがある。
 1964年生まれで、本名はジョゼ・ロベルト・ガマ・ジ・オリベイラ。ブラジル東部のサルバドル出身で、1983年に19歳でリオのフラメンゴに入り、翌年からレギュラーとなって“ジーコの後継者”ともいわれた。やがて1989年、バスコ・ダ・ガマへ移籍、この年の全国選手権でバスコに優勝をもたらし、また89年のコパ・アメリカ(南米選手権)ではブラジルの優勝に貢献した。そして1990年のワールドカップには、代表チームの一員としてイタリアへ乗り込んだが、負傷のため試合に出たのはグループ・リーグ、対コスタリカ戦での7分間だけ。世界へそのプレーを見せつけるチャンスを逃してしまった。
 彼はフラメンゴへ入ったときの身長が1メートル63センチ、体重53キロの小柄な青年だった。それはいまも変わらず、1メートル76センチ、64キロとスリムだ。プレーは力強いタイプではないが、動きが速く、判断も速く、守る側にとっては捕まえられることの難しいFWである。
 その彼が、ヨーロッパの、しかもDFのタックルが荒いことで知られているスペイン・リーグに移ったというのも驚きだったが、ラ・コルーニャでの働きにもまた目を見張った。
 3月初めまでリーグの得点ランキング1位(20点)で、マウロ・シルバとともにチームを引っ張り、スペイン北海岸にあるこのクラブを首位争いにとどまらせている。
 来日したときのプレーは、必ずしもベストコンディションでなかったらしく、不満も残ったが、ボールを受けたときに“さりげなく”戻すパスの正確さと、そのあと相手DFのアナへ入り込む速さは格別だった。
 2月18日のアルゼンチン戦のゴールも、彼が右のカフーへ流し、カフーからのクロスをルイス・エンリケがヘディングで決めたもの。ブラジル特有の、右サイドへDFが上がってくる攻めだったろうが、ベベートが“さりげなく”右へ流したパスが良かったのだろうと想像する。
 対ドイツ戦では1ゴールを決めている。これも彼の空白地域へ入るうまさがきいたものと思っている。
 ベベートのようなタイプの選手は、若いうちはハードなタックルに合ってプレーが止まってしまうことが多い。そうでなければケガをする。
 現在のようにフィジカル面の発達したサッカーでは、こうした選手は生まれにくいし、また育ちにくい。そういう意味から、私はベベートがどこまで伸びるかに関心を持っていた。

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