賀川サッカーライブラリー Home > Stories > >対ベルギー、つぶし合った前半45分

対ベルギー、つぶし合った前半45分

磐田と高原の成長

 ジュビロ磐田がJ1のファーストステージを制した。昨シーズンの最優秀選手賞を手にした藤田俊哉をはじめ粒揃いのチームだから、勝って当然という感じだが、トップチームをより高いレベルに押し上げるためのクラブの姿勢も素晴らしい。鈴木政一監督以下、コーチ陣や中軸プレーヤー、若い選手の皆さんに心からおめでとうを申し上げたい。
 このチームでうれしいのは、それぞれのプレーヤーが、その年、そのシーズンでの伸び率の違いはあっても、絶えず、能力を高めていることだが、このファーストステージ後半は、高原直泰がいよいよインターナショナルなストライカーの域に上がってきたことだ。
 1979年6月4生まれの23歳、病のためワールドカップの日本代表からから外れてしまったが、7〜8月の試合では、それ以前より一段ステッアップしたように見えた。もともと、左足のシュートはいま一つで、型が出来かかっている途中だったのだが、シャープになった。またファーサイドへ開いておいて、相手DFの前(二アサイド)への入り方や、その後のシュートへの動作が、驚くほど早くかつスマートになった。
 さて、2002年ワールドカップの旅は、いよいよ6月4日、日本代表の第1戦である。

ベルギーとの身長差

 巨大な埼玉スタジアムの高い記者席から見ると、ピッチに散った赤いシャツのベルギー代表たちはそれほど大きくは見えなかったが、メンバーリストに記されている身長を見ると、やはり日本代表とは、かなりの差がある。それに従って、フィールドプレーヤー10人の身長差を私流に表すと、▽188センチ以上(日本が0、ベルギーが2)▽184―187センチ(日本0、ベルギー4)▽180―183センチ(日本6、ベルギー3)▽180センチ以下(日本4、ベルギー1)となる。
 ベルギーの188センチ以上というのはDFのバンビュイテン(196センチ)とFWベルヘイエン(189センチ)で、この二人はいかにも長身という感じだが、あとはそれほど上背があるとは見えなかったのは、彼らの多くが骨太(ほねぶと)で肉が厚いからだろう。ちょっと前かがみになるもう一人のストライカー、ビルモッツでも、184センチある。
 この身長差は6月1日のドイツ対サウジアラビアとほぼ同じ。この試合はドイツ側が早いうちに先制点を入れ、すっかり調子に乗って8―0の大勝となった。アジアで守りが良いと言われたサウジだったが…。

楢崎正剛の起用

 日本のラインアップは、GKに楢崎、3DFには松田、森岡、中田(浩)、MFには右側に市川、左側に小野、中央のいわゆるボランチに稲本と戸田、FWには柳沢と鈴木、プレーメークの中田(英)がその後方という、まず手馴れた形。メンバーを見て「楢崎だったか」という人もいた。昨年3月の対フランス戦でミスのあった楢崎は、しばらく代表のレギュラーから外れていたが、今年のJリーグの3月の試合で見事に立ち直って、安定感のある守りをした。私たちの目にも分かるくらいだから、それからの彼のプレーは、当然トルシエ監督も評価していたはず。
 Hグループの日本の初戦、しかもこのグループで最も実力のあるチームと言われるベルギー、彼らが身長差、体格差を生かそうとするのは当然だから、登録番号1の川口能活ではなく、登録は12番でも185センチと上背もあり、落ち着いた守りをする楢崎正剛となったのだろう。

体格差なんのその
 
 日本のサッカーは昔から、ヨーロッパ勢との体格差を、敏捷性とそれを結び付ける技術で対抗してきた。1936年のベルリン五輪の奇跡の逆転がそうだったし、1968年のメキシコ五輪もその成功だった。今度の代表は1978―81年生まれといった、若くてテクニックを備えたプレーヤーを集め、彼らの成長とともにしっかりしたチームを作り上げてきた。当然、その見事なパスワークで赤い悪魔≠スちをかき回すだろう――と思っていたが、前半の様相はまるで違ったものになった。
 なんと、彼らは頑健なベルギー人を相手に果敢なボールの取り合いを演じたのだった。初戦で硬くなりボール扱いがいつものように粗雑になったこともあっただろうが、強い当たりの相手をかわすのではなく、こちらからも1対1の奪い合いを挑んでいった。相手のロングパスに対して、こちらもロングパスで応酬した。技術的ではなかったが、戦闘的で、しかも一歩も引かぬという気構えに満ちた45分は、無得点のままいつの間にか終わり、後半の45分に気がかりと期待を持ち越した。
 
(週刊サッカーマガジン2002年9月11日号)

↑ このページの先頭に戻る