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稲本の2点目に沸いた、対ベルギー後半45分

ビルモッツのファインシュート

 埼玉スタジアムの5万5256人の観衆には、不安と期待の入り混じったハーフタイムだった。
「パスがつながりませんね」
「ミスもあった。硬さもあった。しかし、0―0だからうまくいったと言える。時間がたてば相手も疲れる。そうすればパスもつながるだろう」
 しかし、先制ゴールは相手側に生まれた。6月4日、Hグループの日本―ベルギー戦、57分だった。後半初めから、ベルギーの動きがより早く、強くなった。それに対抗してボールを奪いに行く日本側にファウルが増えた。10分間に6回も相手にFKを与えた。その7回目は日本側からみれば、ゴールラインから25―26メートル。右タッチラインから8メートルばかり内側からのキック。彼らにとって好機と言えた。
 小柄なワレムが利き足の左で蹴ったボールは、ふわりと上がりゴール正面7メートル付近へ。ジャンプ・ヘディングの攻防は、日本側が頭には当てたが、長身相手に遠くへは飛ばずエリアぎりぎりへ。それをバンメイルがボレーで当て、ボールは再びエリア内へ上がり、松田の頭を超えて落下したところに、ビルモッツがいた。それを見事なバイシクル・キックでとらえ、ボールは楢崎の右手をかすめネットへ転がり込んだ。

鈴木の根性ゴール

 手痛いパンチを食らった日本だが、2分後にはサポーターから大歓声が沸き起こる。小野がディフェンス・ラインの裏へ出したボールを追って、鈴木がきわどいシュートを決めたのだった。小野が出したパスは、とりあえず相手のDFの背後へというものだろうが、いかにも小野のキックらしく、やわらかく浮いて落下した。
 それを追うDFに走り勝った鈴木は、GKデブリーガーが飛び出してきた鼻先まで、右足をいっぱいに伸ばして先端で蹴った。体と気性の強さで知られる鈴木の“目いっぱい”のゴールは、この試合の当初から、彼らが見せていた1対1では負けないぞという気迫の表れと言えた。

稲本の左足シュート

 同点にした日本が元気づき、ベルギー側の動きが落ちるのは、自然の理だが、そのなかで稲本のゴールが生まれて2―1と日本がリードした。
 それは67分の稲本のボール奪取から始まった。ベルギーDFからハーフウェー・ライン近くの第2列へ送られたパスを、稲本が取りに行き、小さな横パスをカット。そのボールが後退して来た柳沢にわたる。ためらわず前方へ走る稲本へ、柳沢からパスが送られ、ゴールエリア手前でDFを左にかわし、ゴールエリア手前で左足のクリーンシュートをした。
 柳沢からのパスも文句なしだが、稲本が利き足でないだけに、右足をしっかり踏み込んで、左足でしっかりボールをとらえるところが、スタンドからも見てとれた。このシュートはだれが見てもゴールシーンのなかで最も分かりやすく、面白い場面の一つ。ワールドカップということで、初めてサッカーのテレビ放送を見た人も、この日の55パーセントという高視聴率のなかに何パーセントかはおられたはず。その人たちに、このドリブルとシュートは忘れられぬシーンとなっただろう。
 昨年秋、日本代表が親善試合で、イタリア代表をここ埼玉スタジアムに迎えたとき、稲本は小野との連携による左サイドでのプレッシングから、ボールを奪った後、ゴール前へクロスを送って、柳沢のビューティフル・ゴールを演出した。
「高い位置からプレスをかけボールを奪えば、素早く攻撃しフィニッシュへ」というのは、ここしばらく日本サッカーにお題目のように唱えられてきたやり方の一つだが、この大舞台で稲本がやってくれるとは――。
 リードした日本は、鈴木に代えて森島を入れ、足の状態のよくない森岡を宮本に代えた。宮本が加わって4分後、ベルギーが左CKから2点目を挙げて、同点にする。75分のこのCKは、エリア外(後方)へ送り、そこからのロブ(高い球)でまず競り合い。この空中戦は、日本が押し戻したが、ピンチはその後に起きた。このボールをバンメイルが拾って、再びロブを送る。前に残る相手をオフサイドにかけようと、前進する日本のディフェンス・ラインと逆に、後方から走り込んだバンデルヘイデンが、ノーマークとなって左足の軽いタッチのボレーで決めた。日本のディフェンス・ラインを破る戦術は巧みに練られていた。
 それからの15分間の攻防の激しかったこと。日本は再び稲本が、今度はエリアの右側に入り込んで、ネットを揺さぶったが、シュートの前に彼にファウルがあったとして、ゴールは認められなかった。
 2―2。3点目が取れなかったのは残念だが、実力を出していい試合をしての引き分けだった。

(週刊サッカーマガジン2002年9月18日号)

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