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10人の苦境を跳ね返したドイツとカーン

イエローカードの連発

「おかしな展開になりましたね」とKさんは言う。
 2002年6月12日、静岡県袋井市の静岡スタジアム。午後8時30分から始まったE組第3戦。カルーメン対ドイツは0―0で前半を終わり、ハーフタイムに入っていた。
おかしな展開≠ニいうのは、ロペス主審の笛の回数がずいぶん多く、イエローカードもどんどん出され、前半だけで合計8枚、40分にはドイツのラメロウが2枚目で退場となったことを指していた。
 ワールドカップは前日までで、各グループの第2戦が終わり、この日からいよいよ第3戦――。
 D組のもう一つの試合、サウジアラビア対アイルランドも同じ時刻に始まっていた。5月31日のソウルでの開幕試合で始まり、札幌、埼玉、釜山、全州、西帰浦、横浜と、日韓の会場を毎日飛び歩いていた私は、6月10日に取材を一休みし、スカイパーフェクTVの番組に出演した。東本貴司、羽中田昌さんたちと試合の中継画面を見ながらのトークは、とても楽しいものだったが、慣れないマイクの前での10時間は、結構ハードだと、後で知った。
 その夜、東京のお台場のホテルに泊まり、11時の昼には西下して、午後2時半に浜松駅に近い名鉄ホテルにチェックイン。東海道線で東に向かって掛川駅へ。ここからメディアバスでスタジアムへ来たのだった。

ラメロウの退場

「10人のドイツは、後半どうするでしょう」「まず、しっかり守るのは当然だが、ゴールを取れば楽になる。人数が少ないのだから、個人的なキープを足場にするだろうね」
 などと話し合いながら、前半のメモを読み直す。ファウルの数はドイツが20でカルメーンが10。激しい雨のため滑りやすくなったピッチに、大型のドイツの選手が苦労していた。カルメーンの早い動き、ステップやターンに遅れ、足を出し、あるいは腕で妨害することが多かった。
 退場となったラメロウは、後方からのスライディング・タックルで1枚目のイエローをもらった(37分)後、40分にサムエル・エトオのドリブルをトリッピングで止めて2枚目となり、レッドを出された。
 その伏線はCKをGKに直接キャッチされたところにあった。ドイツの左サイドのツィーゲのロングホールが右CKとなる。記者席スタンド側のコーナーからのツィーゲのカーブキックは、GKアリウムが補給し、右へ投げた。そこからエオトのドリブルが始まる。
 有利な形でスタートしたエオトのドリブルを止めるのにドイツのセントラルDFはファウルをしなければならなかった。
 ボールがGKにキャッチされたとき、ツィーゲは頭を抱えたが、ベテランは滑りやすいピッチで前がかりになったときのCK失敗の重大さを感じていたのだろうか。

ピンチをチャンスに

 45分間に互いのチャンスはあった。カルメーンでは12分にオレンベがディフェンス・ラインの裏へ飛び出したのが、ビッグチャンスだったが、カーンの落ち着いた1対1の対応に防がれてしまった。
 昨年の第22回トヨタカップでバイエルン・ミュンヘンのGKとして来日し、ボカ・ジュニアーズのデルカドの突破に対しての非凡の守りを見せたカーンだが、その読みとポジショニングと、動作の早さ、それを支える足や腰や手の強さにはあらためて感心してしまう。
 カーンの守りの面白さは、相手シュートに対しても、クロスに対しても、余裕のあるときは、どこへたたけば詰めてくる相手よりも先に味方が拾えるかまで計算していること。GKは攻撃の始まりというが、それは有利な形でのキャッチに続く手での送球やキックなどだけでなく、セービングやフィスティング(こぶしでたたく)といった、きわどい場面でも次の場面への予測があり、攻撃のスタートへの配慮があることだ。
 ピンチをチャンスに結び付けるキャプテンの強気がバックになっているのかどうか――。後半が始まると、10人のドイツが積極的に攻めた。交代はあったが、DFを増やすのではなく、ヤンカーに代えてボーデを送り込んだ。クローゼがリーチを生かしたスクリーニングとドリブルから左に流したパスを、そのボーデが得意の形でシュートを蹴り込んだ。
 10人を相手に後半の45分は有利にたたかえると思っていたはずのカメルーン側にとって、この一発は必然的に焦りを生む。するとファウルが増える。ロペス・レフェリーからの黄色は、今度はカメルーン側に多くなる。流れはすっかりドイツに傾いていった。

(週刊サッカーマガジン2003年1月1日号)

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