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死のFグループの最終決戦

大阪の午後のムシ暑さ

 大阪・長居スタジアムの西に隣接する球技場に設けられたメディアセンターは大にぎわいだった。
 6月12日、ワールドカップの第1ラウンド、各組のグループリーダーは3巡に入っていて、この日は、F組のナイジェリア対イングランドがここ長居で、スウェーデン対アルゼンチンが宮城でともに15時30分から。韓国会場では、B組の南アフリカ対スペイン、スベロニア対パラグアイが20時30分から組まれていた。
 3日前に日本代表がロシアに勝って、第2ラウンド進出への希望が強くなったこともあって、第2ラウンド進出への希望が強くなったこともあって、日本の記者たちの顔も明るかった。
 放送解説の岡田武史や水沼貴史といったかつての代表選手たちと、しばらく立ち話。
「2敗してしまったナイジェリアを相手に、イングランドはどんなたたかいをするでしょう」
「引き分ければ、スウェーデン―アルゼンチン戦の結果に関係なく2位になれる。といっても、どんな弾みで1点を取られるかも分からないから、まず点を取りにくいだろう」
「問題はまだ、太陽の出てる日中の試合。暑さでしょう。ドイツやイングランドの選手は、こういう気温での経験は少ないから…」
「94年のアメリカ大会のダラスの試合で、ドイツが韓国に前半3―0とリードしたが、後半は動きが止まって2点を奪われ、追い上げられたことがあった。韓国の頑張りはすごかったが、ドイツの選手は暑さでバテバテだった」
「日本の暑さと湿気は特別です。だから今度の大会で私は日本に上位進出のチャンスはおおいにあると思っている。向こうが暑さで苦しんでいるときに、こちらが平気な顔をして見せれば、相手は心理的にまいるだろう。例えば、ヒマラヤで7000メートル以上になったとき、同じように酸素希薄ななかで、シェルパの高地での強さを見せ付けられるようなものでね」
「その平気な顔のシェルパの話、何かに使わせてくださいヨ」

全国紙の大阪府下版に書く

 この日の私の仕事の一つに、A紙の大阪府下版にコメントを書くというのがあった。大阪府下、市内版というのは、いわゆる「縣版(けんばん)」で全国紙がそれぞれの地域(社県)ニュースを扱うページ。そこに、当日の大阪での試合の周辺話題を掲載するなかの彩りに、私のコメントを――とのことらしい。
 こういう大新聞の大阪府下市内への配達は、百何十万部という部数で、したがって締め切りも早い。そこで、私が書いたのをスタンドから長居スタジアムに近い「前線本部」へ送り、そこを経由して本社へ――という送稿手順になる。
 その送稿を手伝ってくれる記者と並んで観戦するため、A社の用意したチケットでバックスタンドへ。改装前には何度も足を運んでいたバックスタンドだが、屋根ができてからは初めてで、ここから見るメーンスタンドとピッチがとても美しかった。

アルゼンチンの敗退

 ナイジェリアのキックオフで始まった試合はオコチャがのらりくらりとキープしてみせた後、イングランドが3分にスコールズがシュートして、ゴールへの意欲をうかがわせた。
 4万4864人の観衆のお目当てのベッカムは、8分の右CKをはじめとして、前半に5本のCK、4本のFKを蹴り、2本のいいクロスを送った。得意の円を描いて旋回してのドリブルシュートもあった。追い越して、走り上がるミズルにもクロスを蹴らせ、長身のヘスキーと俊足のオーウェンを生かすサイド攻撃は見応えがあった。
 二人のFWのポジショニングやその後ろで拾うスコールズ、バットのシュート、左サイドのMFシンクレアのダッシュとともに、イングランドの攻撃展開を面白くしていた。一方のナイジェリアは、オコチャのシュートのリバウンドにアガホワが突っ込んで、イングランド側をひやりとさせた。
 後半もイングランドの攻撃は続いたが、暑さによる疲れが出始め、ヘスキーの交代で現れたベテランのシェリンガム――大試合でゴールを奪ってきた――に期待がかかった。しかし、76分にコールのクロスから始まったチャンスにボレーを蹴ろうとして太ももに当てて失敗した。
 0―0。イングランドは対スウェーデンでのベッカムのCKからのゴールと、対アルゼンチンの彼のPKの合計2得点で、第2ラウンドへ。
 試合の後でアルゼンチンがスウェーデンと、1―1で分け、敗退したのを聞いた。テレビで見ると、スウェーデンの先制ゴールはFK、A・スベンソンが右足でボールの底をたたくのが素晴らしいが、それに対してアルゼンチンの壁の選手は、誰もジャンプしていないように見えた。
 
(週刊サッカーマガジン2003年2月5日号) 

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