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日本対トルコ 前半に訪れた魔の30秒

接触プレーで劣勢

 小雨降る仙台のスタジアムで運命のゴールは、前半12分にやってきた。トルコのキックオフで始まった試合は、日本のプレスを跳ね除けたトルコの左サイドの攻め込みで、まず、ブルーのサポーターがヒヤリとする。
 白ユニホーム、赤パンツのトルコのフィールドプレーヤーの身長は、185センチ以上が3人、180〜184センチが2人、177〜179センチが2人、176センチ以下は3人だった。
 一方の日本選手は、185センチ以上が0人、180〜184センチが4人、177〜179センチが1人、176センチ以下が5人、となっている。
 ずば抜けて長身(191)のストライカー、ハカン・シュキルは別として、それほど体格差はないようだが、トルコの一人ひとりは、肉が厚い感じで、腰が低い。
 開始後6分で、日本側にファウルが4回(トルコは1回)もあったのは、やはり、体と体の接触するプレーで劣勢に立ったからだろう。
 なかには、日本側のホールディングを振り払ってしまう場面もあった。
 日本の4つ目の反則で、トルコはゴール正面、20メートルのFKのチャンスを得た。22番のモヒカン刈りのユミト・ダバラが狙っていったが、つぶしにいった赤いモヒカン髪の戸田に当たって、ボールはGK楢崎へ。

日本のCKチャンス

 9分に、日本は右CKのチャンス。これは中盤でのボール奪取から中田英が右サイドからクロスを蹴り、DFの足に当たったもの。
 その右CKは、キッカーのアレックスが短く中田英にわたし、さらにアレックスが受けて、ファーへ送るという手の込んだものだったが、中田浩への長いパスは方向がずれた。
 10分に、今度は左CK。左サイドの小野の見事な縦パスを追ったアレックスがクロスを蹴り、それをDFがヘディングでゴール・ラインの外へ出したもの。
 期待は高まったものの、小野のキックはトルコ側のヘディングで防がれてしまう。
 
スローインから運命が変わる

 このボールが日本の左サイドに高く上がり、落下点で戸田とハサンが絡んで、トルコ側のスローインとなったところから、試合は意外な展開に変わっていく。
 トルコのロングスローは手が滑ったのか、仲間にわたらず、左タッチライン際で小野が取って、ダイレクトで前のアレックスへ。アレックスはこれを後ろの戸田に戻すと、戸田から小野に再びわたったボールを、小野が今度は中田浩へバックパス。
 中田浩は、寄せてくるハサンを前にパスを中へ送ると、それがなんと、ハカン・シュキルにわたってしまう。シュキルは右側にいたハサンにパス、これを中田浩がCKに逃げたのだった。
 
モヒカン頭のヘッド

 相手の左CKのキッカーは、エルギュン・ペンベ。その左足から繰り出されたボールは、高く上がって鋭くゴール・エリアのライン中央に落下した。例のモヒカン頭のダバラがジャンプヘッドした。
 テレビのリプレーで見ると、ノーマークでジャンプした186センチの彼の頭がとらえたボールは、GK楢崎が届かないゴール右上隅近くへと飛び、高さも強さも文句ないヘディング・シュートだった。
 少し戻り気味の体勢から、ジャンプをするダバラの周辺には、白ユニホームはいても、ブルーのユニホームで競りに行く者が誰もいなかったのも不思議なことだった。
 小野のバックパスを中田浩がミスして奪われてCKとなり、得点まで30秒ばかり――。日本にとって、まさに「魔の時間帯」だった。
 優れたプレーヤーでも、ミスを犯すことがあることは誰もが知っている。ワールドカップでは、1982年のあのジーコたち黄金の4人の代表が、スペイン大会第2次リーグの対イタリア戦で、トニーニョ・セレーゾ(現・鹿島監督)のパスを奪われ得点されたことを思い出す。
 彼らの監督、テレ・サンターナは「完全なプレーヤーなどいない。誰もがときにはミスをすることがあるが、それを皆でカバーするのが大切なのだ」と語って、選手の失敗を責めなかった。
 一つのミスに続く空白状態の30秒に、痛いゴールを失った日本代表は、残りの80分間を総力をあげて挽回することになるのだが…。

(週刊サッカーマガジン2003年5月27日号)

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