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コンフェデレーションズカップ 選手自身の工夫が見たい〜番外編〜

ラグビーと野球の寓話

 コンフェデレーションズカップ第1戦のニュージーランド戦のテレビを見ながら、ニュージーランドについてのある対話を思い出した。
 私がスポーツ紙の編集局長をしていた20年以上も前のことだが、ニュージーランドから関西にやってきたある高校のラグビーチームを取材に出かけたT記者が、帰ってくると、こう言った。
「あなたの学校のラグビー部はどういうスタイルですか――とコーチに訪ねたら、“ラグビーのチームのスタイルは、構成する選手によって決まるもので、うちの学校のスタイルといった決まったものはありません”という答えでした」
「その高校のコーチの言う通りだヨ。日本では早稲田ラグビーとか明治のラグビーとか、伝統ある大学に固有のやり方があるように言われているが、もともとチームのやり方は集まってきたプレーヤーによる――という極めて普通の考えだ。そのコーチは、君の問いを不思議に思ったのかもしれないヨ」と、私は答えたのだが…。
 最近も、米国のメジャーリーグ・ベースポールのテレビ放送の中で、アナウンサーが「バッターも2巡しました。相手投手に対して、チームとして狙い球をどれに絞るのでしょうか」と言ったのに対して、解説者は「大リーグでは、どのボールを狙うのかはバッター一人が考えるものです」と答えているのを聞いた。

第2列からの飛び出し

 コンフェデレーションズカップ第1戦は、日本が3-0で勝った。中田英と中村がそろい、稲本の調子が少し良くなっていたから、パラグアイ戦のメンバーは、大きな崩れもなく、前半に稲本が前がかりで奪ったあと、中田英、高原と絡んで、中村が左ポスト近くからのシュートを流し込んで、先制ゴールとした。
 早い攻めで、中田英、高原の間のボールをどちらもコントロールできず、それを高原が左へ突っついて流したのが良かった。中村の左足の得意の形にボールがあるときの余裕で、相手GKを目の前にしての狭い角度にもかかわらず、得点につながった。
 もっとも本人は試合後に、ボールを浮かそうと思ったのがうまくいかなかったと言っている。意図通りにいかなくてゴールとなる例は多いが、第2列から前線へ飛びだした中村が決めたのは、この“ワールドカップの旅”の連載でもたびたび取り上げている「第2列、第3列からの飛び出しがゴールを生む」という現代サッカーの表れといえる。

中田英のシュート練習

 2点めの中田英のドリブルシュートは、“意図に反した”1点目とは違って、中田英が自ら狙ったところへ狙った通りのシュートを成功させたもの。アレックスが自陣から左サ
イド前方へ配球し、そこから、中へのパスを受けて、中田英がドリブルで持っていってのシュート。
 相手が詰めてこないため、余裕はあったが、彼の会心のシュートの一つだろう。伝え聞くところでは、フランスでもシュートの練習を重ねているそうだが、当然のこととは言いながら、一番シュートが上手で、得意の型を持つ彼が、練習を繰り返したという話は、何よりも日本全国の若いプレーヤーへの大きな刺激となると思う。
 前回のこの連載(番外編)でも、シュート練習に触れておいたが、この点は何度繰り返しても、強調しておくべきだろう。
 先のアルゼンチン代表との試合で1−4で完敗したとき、監督の“指揮ぶり”についての批判も多かったが、私はサビオラをはじめとするアルゼンチンの若い代表が、同世代の日本代表や候補たちに比べて、テクニックもスピードも、そしてポジションプレーも、一つ上の段階にある方が気になった。
 韓国戦では幸運のゴールを決めた永井も、ゴールヘ向かう気持ちはいいとしても、トップとしてのボールの受け方では、彼らに及ばない。日本特有の環境の中で、大切な成長期にステップアップが小さかったとしても、まだまだ工夫すれば伸びてくるはずだ。
 コンフエデレーションズカップの第2戦、第3戦で選手たちは、相手の速さ、強さにどう対応するかを体得してほしい。

(週刊サッカーマガジン2003年7月8日号)

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