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イングランド対ブラジル 固唾を飲む攻防

王子と元FIFA会長

「ゴッド・セイブ・アワ・グレーシィス・クィーン」の英国国歌に続いて、ブラジル国歌が吹奏され、テレビ画面に選手たちの表情とともに、アンドリュー王子やアベランジエFIFA元会長といった両国の貴賓が映し出された。
 2002年6月21日。ワールドカップはこの日から準々決勝に入り、15時30分から静岡で、イングランド対ブラジル、20時30分から韓国の蔚山(ウルサン)でドイツ対米国が組まれていた。
 本来ならば、静岡スタジアムの記者席にいるはずなのだが、そけいヘルニアの症状が進んだのに加えて、大腸ポリープの検査を19日に受けたこともあって、この日は旅行を自重して、テレビ観戦をすることになってしまった。
 イングランドのスターティング・リストは、GKシーマン、ディフェンス・ラインはミルズ、キヤンベル、ファーディナンド、、A・コール、MFはベッカム、バット、スコールズ、シンクレア、それにオーウエンとヘスキーのFWというなじみの顔ぶれとなった。
 一方のブラジルは、第2ラウンドの対ベルギーに途中から出場してチャンスを作ったクレベルソンが、ジュニーニョに代わって起用された以外は同じ顔で、GKマルコスに、カフー、ルッシオ、エジミウソン、ホッキ・ジユニオール、ロベルト・カルロスのディフェンス・ラインに、先のクレベルソンとジウベルト・シウバのMF、それにロナウジーニョ、ロナウド、リバウドの“3R”トリオだった。

ベッカムへのマーク

キックオフからしばらく、イングランドが押し込む形になる。ベッカムのCKが1本、FKが2本。
 1本日の右からのFKは、ヘスキーに届いたが、競り合ってのシュートは弱くてGKマルコスの正面。2本日は深いところから右前へ送ってミルズを走らせた。ロベルト・カルロスに防がれたが、角度のあるFKだけでなく、まっすぐ、オープンに出せるところが、この選手の右足の多彩さだろう。
 ブラジルの最初のシュートは、6分のリバウド。エリア外からの左足は、右に外れた。厚い壁のように立ちはだかる相手DFの外から、まずシュートをしてやろう――というところだろうか。
 そのすぐあとに、今度はロナウジーニョが右サイドから中へドリブルして、リバウドヘパス。リバウドのシュートがDFに当たったリバウンドをベッカムが拾うと、それをジウベルト・シウバがファウルで妨害する。ベッカムに対するブラジル側の警戒心は、相手陣内でのジウベルト・シウバのこうしたタックルにも表れている。

スコールズの飛び出し

 そのベッカムは、FKを短くヘスキーの足元へ出し、彼のバックパスからスコールズがシュートへ持っていく。ブラジルはこのシュートのディフェンスのリバウンドを攻撃につなげて、14分からの1分間に、ロベルト・カルロスのFKに続く左と右のCKで脅かした。
 バットのロナウジーニョに対するファウルで得たエリア外、やや右よりのロベルト・カルロスのFKは、彼が助走の動作を起こした途端に、スコールズが壁から飛び出して、タックルに行った。
 シュートはイングランドの誰かに当たって左CKになったのだが、ロベルト・カルロスの強いシュートに向かって飛び出していくスコールズ(タイミングは反則だが)の果敢さに、思わずうなってしまう。
 19分にロナウドがドリブルからリバウドに当て、リバウドのバックパスを右でダイレクトシュートした。ファーディナンド、A・コールの大型センターDFの前でのシュートは、GKシーマンから見えにくいのだろうが、正面へ行った。
 そうしたブラジルの攻勢の強まる中で、23分にイングランドにゴールが生まれた。決めたのはオーウェンだった。パスを出したのは右のミルズからボールを受けたヘスキー。ただし、オーウエンにはダイレクトに渡らず、止めようとしたルッシオに当たって、そのボールがオーウェンの前に落ちたところから生まれたチャンスだった。まこと、サッカーは何が起こるか分からない。
(詳細は次回に)

(週刊サッカーマガジン2003年9月2日号)

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