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イングランドvsブラジル ベッカムの故障が響いた同点弾

オーウェンの早さと余裕

 日本代表対ナイジェリア、3-0の勝利(8月20日、東京)は、たとえ相手がスーパーイーグルスという呼び名にふさわしいチームであったと言えないにしても、中田英寿、中村俊輔を中心とするを日本代表の攻撃の手順とフィニッシュがうまくいったという点が良かったと思う。
 私にとっては、高原が自分の型で点を取ったこともうれしいことだった。これは高原本人と代表チーム全体にとってもそうだし、同時に急にメディアの間で、“エース”などという見出しを付けられるようになった大久保嘉人の扱いが、少しは沈静するかもしれないと、ほっとした感じもないではない。
 さて、本題の2002年ワールドカップの旅――前回(9月2日号)に続いて、イングランド対ブラジルのオーウェンの先制ゴールから――。
 23分の先制点は、イングランドにはやや幸運、ブラジルにはやや不運とも言えた。
 イングランドの攻めは、@相手のストライカー、リバウドのシュート
をDFが体に当て、このボールを拾ったところから始まった。Aスコールズが短くキープして、右サイドのミルズにパスを送り、Bドリブルしたミルズは前方のノーマークのヘスキーヘ、Cヘスキーはボールを受けて前を向くなり、前方へボールを送る。Dヘスキーの反転と同時にスタートしていたオーウェン、それをマークしつつ後退するルッシオ、Eヘスキーのボールは、そのルッシオの右のスネの外側に当たって落ちる。Fルッシオの外側へ出ようとしていたオーウェンだが、このボールへの反応が早く、ポールを奪って中央左よりからエリア中央へ突進。G飛び出してくるGKマルコスに対して、ひと呼吸タイミングを遅らせながら、しかもボールの下を蹴って小さく浮かせるという配慮で、ボールをゴール中央のネットへ送り込んだ。

ベッカムがまた足を…

 押し込まれ始めた形勢から、オーウェンの早さと、ゴール前の余裕で先制したイングランドが優位に立ったと見えたが、その2分後、ベッカムがストレッチャーで場外に運ばれ、サポーターの懸念は強まった。
 ロナウドの左サイドでのキープを、ベッカムが奪いに行ったとき、右足を傷めたようだった。痛むらしく、奪ったポールを前方へフィードしたベッカムが、ピッチに腰を落としてしまったのだった。
 
ブラジルの同点ゴール

 右のカフー、左のロベルト・カルロスと両翼が深く前進し始めたブラジルが攻撃を強め、41分にはロベルト・カルロスの強烈な右足シュートがDFに当たって高く上がり、そのボールをジャンプキャッチしたGKシーマンが、着地したあと、しばらくピッチで伸びてしまう。
 そして、ロスタイムに入って、ブラジルの同点ゴールが生まれた。
 左サイドのタッチ際での取り合いから、ロナウジーニョが自陣からドリブルで持ち出して、二人をかわして、ゴール正面エリアにかかるあたりで右へ流し、リバウドが左足のシュートで決めた。
 それまで、相手側の深いところ、いわば狭い地域でのドリブルを強い
られていたロナウジーニョが、自陣から持ち上がる有利な体勢になったのが幸いしたが、そのロナウジーニョにポールが渡る伏線には、やはりベッカムの足の負傷があった。
 イングランドのファーディナンドの蹴ったハイボールが、右サイドに落下して、それをベッカムとブラジルの二人が競り合ったとき、ベッカムはジャンプして二人の挟みうちを避けた。
 もとからの右足をかばったのか、この試合で傷めた右足なのか――ボールはホッキ・ジュニオールがやすやすと取って、前へ送った。そしてこのボールもイングランドのスコー
ルズが取れる体勢にあったのを、ブラジルのジウベルト・シウバがスライディングし、ロナウジーニョに渡ったのだった。
 負傷を持ったベッカムに対して、強烈なスライディング(実際には型だけだが)をやってみせたロベルト・カルロスのフェイクもたいしたものだが、そうした相手との接触を避け
なければならないところに、やはりベッカムとイングランドはハンディを負っていたといえるだろう。
 ロナウジーニョの素晴らしいドリブルと、そのあとに続くパスと、リバウドの落ち着いたシュートは、ため息の出るほどだが、彼らの技術を引き出すためにロベルト・カルロスやジウベルト・シウバ、ホッキ・ジュニオールが見せた局面での駆け引き
の巧さが、あらためて印象に残った。
 前半はとても面白かったが、同点になったのと、ベッカムの負傷が目立つプレーが出て、イングランドの後半はいささか難しくなった。

(週刊サッカーマガジン2003年9月16日号)

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