賀川サッカーライブラリー Home > Stories > >1年後の新潟 ビッグスワンでのセネガル戦

1年後の新潟 ビッグスワンでのセネガル戦

身長差とヘディングカ

 コンフェデ杯以来のビッグスワンは、秋が近くなった越後平野の夜空に、自らの電光に美しい姿を浮かび上がらせていた。
 試合前にひと雨あったが、屋根の下の記者席は濡れる心配のないのがうれしい。街の書店で売っていた「新潟ウイーク」というパイ・ウイークリーの雑誌(320円)9月12日号にルビレックスNEWSが10ページ以上にわたって掲載されているのを見て、新潟にとってアルビレックスと、ワールドカップで作られたビッグスワンというスタジアムが市民に根付こうとしているのをあらためて知る。
 キリンチャンレンジカップのアフリカンシリーズ第2戦のためにやってきたセネガルは、9月2日に来日し、時間をかけて10日の試合に備えたから、日本にとっては、この2002年ワールドカップのベスト8国は、先のナイジェリアのような“未調整スーパーイーグル”でなく、十分に歯ごたえのある相手といえた。
 彼らと戦うこの日の代表を見る私のテーマは…
「日本の身長と相手の高さとジャンプカ」が第1。
 第2は「高原のいないFWが点を取れるのか」。
 第3は「大久保の飛び出しは通じるか」――だった。
 ハーフタイムに田村修一氏や木ノ原久美さんたちとも話し合ったが、第1の課題は6分のセネガルの右CKの得点、P・B・ディオップのヘディングという結果が出た。
 H・カマラが蹴ったCKはカーブを描いてP・B・ディオップの頭へ飛んだ。
 スロービデオのリピートを見ると、ボールの落下地点は、ペナルティー・アークの近くで、P・B・ディオップはその3歩後方からスタートし、落下点を予期してその位置へ入った坪井慶介(179センチ)よりも先に踏み切ってジャンプし、その体に押さえられて坪井はジャンプすることができなかった。

カンナバーロならどうする

 リピートを見たときにテレビ解説者の声も耳に入ったが、多くは「どうしようもない体格差という意見だった。
 これくらい身長差のある相手が助走をつけて飛び込んできたシーンとしては、ワールドカップでは98年大会決勝のフランスの先制ゴールで、あの大柄なジダンの飛び込みヘディング(ニアポスト)を小柄なレオナルドが防げなかったのを思い出す。
 ただし、私は同じワールドカップの舞台でお目にかかった上背のないイタリアのDFカンナバーロが、常に長身FWとのヘディングの競り合いで、相手を自由にさせないのを見たのだが…。
 DFの教訓としては、自分よりも長身の相手にヘディングさせないためには、相手よりも早く踏み切ってジャンプし、相手と接触することで、相手に自由にジャンプをさせないこと――となっているが、1点目のP・B・ディオップはそれを避けて、助走をつけ、何分の1秒か早くジャンプを踏み切り、空中で体を伸ばし、それを祈り曲げるように前へ突き出
したのだから…。
 日本のDFの宿命ともいうべき課題を坪井慶介がどのように見つけるのかも興味がある。

大久保の飛び出し

 こういう体格差、体力差からくる失点は、当然予想されたところで、この失点を回復し、中田英寿、中村俊輔の構成カをどのようにフィニッシュに結び付けるかが、日本代表の当面の仕事なのだが、「高原のいないFW」は結局、ゴールを奪えないままに終わった。
 一つには大久保が「飛び出し」に成功しなかったことがある。彼はここしばらくの無得点から、Jの2試合で連続マルチゴール(2得点ずつ)を記録しているが、それはJとU-22代表とフル代表の試合が重なり、さまざまな経験をしたあと、再び自分の持ち味の「飛び出し」に集中すると心に決めた成果だった。ただし、この日のようにプレーメーカーへのマークが厳しく、相手の速い守備ラインの進退の読みがいいときには、「飛び出し」にはまずタイミングが重要となる。この点では21歳の彼は、これからの勉強になってくる。
 この日は柳沢の方にシュートチャンスが多く、それを失敗したから彼の積極性を思いつつ“やっぱり”などと言う人も出てくるだろう。
 柳沢にとっては、前半のボレーシュートをオーバーしたとき(02年ワールドカップでも同じような場面があった)に見られるように、自分のキックのタイミングまで待てないところに問題がある。
 彼のシュートや、久しぶりに登場した小野をはじめ、ほかの多くの点については別の機会に――。

(週刊サッカーマガジン2003年9月30日号)

↑ このページの先頭に戻る