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ボールを巡る格闘技、ドイツ――米国

チュニジア戦と柳沢

 対チュニジアの早朝の映像をご覧になった方も多かったに違いない。
 高原を欠き、鈴木と柳沢で組んだ2トップは、必ずしも数多くのチャンスを生み出したわけではないが、39分の決定機に柳沢がしっかりシュートを決め、アウェーの難しい勝利をもぎ取った。ディフェンス・ラインでは、この連載でも触れた大型DFの中澤の空中戦が頼もしく、新しい加地、茂庭やベテランの三浦淳たちが、GK楢崎とともに何とか無失点で通した。
 柳沢のゴールは、@まず相手の左サイドでのボールキープを稲本が追い詰めて、バックパスをさせ、Aそれを中田英がプレスに行ったことでチュニジア側のパスワークが乱れた。B茂庭がカットしてダイレクトに前方へ蹴ったボールは、チュニジアのディフェンス・ラインの裏へ抜け、C柳沢がドリブルからシュートしたもの。
 テレビ映像のリピートを見ると、柳沢はGKが出てくる位置を目で確かめたあと、蹴るときにはしっかりとボールを見ているようだった。
 自分たちの忠実なプレッシングで相手のパスミスを誘発させ、それをノンストップで蹴り返してのチャンスだから、偶発的のようだが、華麗なパス攻撃だけでなく、こういう努力と運とが交ざり合ったチャンスを決めるかどうかが、勝敗に大きくかかわるものだ。そしてまた、それを決めるのがFWの仕事でもある。
 その攻撃は、代表チームと柳沢にとっても、私たちにとっても、いいゴールだったと思う。

米国の速さ、ドイツの高さ

 さて、ワールドカップの旅に戻ることに――。
 2002年6月21日の準々決勝――黒の喪章を付けた大国・ドイツと、新興・米国の戦いはまことに激しい力相撲となった。
 グループリーグの初戦でポルトガルを倒し、16強の第1戦でメキシコをノックアウトした米国のスピードは、この日もドイツ相手に発揮された。17分と30分にはドノバンがそれぞれ右サイド、左サイドを突破してシュートをした。
 だがドイツにはGKカーンがいて、決定的ピンチを防ぐ。前者では右へ跳び右手でシュートをはじき、後者ではエリア内に侵入したドノバンの前に立ちはだかるように構えて、シュートを右手でCKに逃れた。
 ドイツも攻める。律儀なまでにボールをサイドヘ散らし、ゴール前へとクロスを送る。長身選手が飛び込んでくる空中戦は、まことに圧巻。まさに“ボールを巡る格闘技”と言えた。

(週刊サッカーマガジン2003年10月28日号)

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