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冴え始めたシュートカ ショットオン・ゴール8/9

 NHK番組『そのとき歴史が動いた』の担当者がベルリン・オリンピックの逆転劇について取材に来た。ある民放から、日本で最初にサッカーボールを蹴った日本人は誰か、と問い合わせがあった。慶應義塾大学『塾生新聞会』の学生さんがベルリンの右近徳太郎さん(当時、慶應の学生)の話を聞きたいという。どういう理由であれ、サッカーについてメディアが関心を持ってくれる――それも、いまのことだけでなく、時の流れを遡って探ってくれることはうれしいことだ。

 さて、2002年ワールドカップの私の旅は6月22日、埼玉スタジアムでのブラジル対トルコ戦。前半0−0の後、ハーフタイムにメモを見ながら、両チームの攻防を振り返っているところ――。
 前半のブラジルのシュートは9本。そのうちゴール枠内へ飛んだもの、英語で言う「SHOT ON GOAL」が8本。外れたのも右ポストに当たった際どいシュートだった。右サイドのカフー、左サイドのロベカル、そしてリバウドとロナウド二人のFWが放ったシュートは、すべてがゴールを襲ったことになる(トルコは5本のうち2本がショット・オン・ゴール)。


リバウドのノーステップ・シュート

 ブラジルでシュートを蹴った選手は4人。カフ(1本)とロベカル(3本)の両サイドの専門家と、リバウド(3本)とロナウド(2本)の2トップだった。
 ロベカルは30メートル近いFKだけが得意の左足で、ほかの2本は中へ持ち込んで内へ抜いての右足だったから利き足ほどの威力はなかったが、それでも正確なキックだった。
 彼らの9本すべてが低く、押さえがきいていた。
 面白かったのはリバウドの左足。1本は囲まれながら、しっかり踏み込んで蹴った。あとの2本は狭いスペースの中で、ノーステップの左足シュートだった。踏み込んで放ったシュートの威力(前号参照)はGKの正面であっても捕球できない強いクセ球だったし、ノーステップのシュートは前者ほど強くはなくても、正確にコントロールされ、しかも相当なスピードでゴール右下ぎりぎりへ飛んだ。
 調子の上がってきたブラジル代表は、とうとう彼らとほかのチームとの差を見せ付け始めた。その最たるものは、ボールを強く正確に目標へ蹴れることだ。
「トルコはこの差を何で補うだろうか」
 前半のメモにこう付記した。やがて、選手たちが入場してた。さあ、後半が始まる。


(週刊サッカーマガジン2004年6月8日号)

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