賀川サッカーライブラリー Home > Stories > >決勝ゴールになったロナウドのトーキック

決勝ゴールになったロナウドのトーキック

 6月1日、U-23日本代表がU-23マリ代表から挙げた大久保の同点ゴールは、彼の得意の形のシュートだった。その良い形に持ち込めるところヘパスを送った松井のノーステップのサイドキック・パス(相手DFの足の間を通した)がヤマだった。


久保の動きと小野のシュート

 マンチェスターで行なわれたフル代表のイングランド戦は、後半に中村―アレックス―小野とパスを通してペナルティー・エリアのゴール正面左から小野のダイレクトシュートで同点とした。パスのコース、シュートとともに小野の前を中から外へ(右から左へ)走り抜けた久保の動きにも注目したい。彼とそのマーカーが目前を横切ったことでGKジェームズはボールを注視できなかったのだろう。
 ベッカムをはじめイングランド側はこのとき、日本選手にスペースを与えていた。聞くところによると、欧州選手権のための合宿を終えたばかり――その疲れで動きが鈍ったのかもしれない。ただし、相手の動きが落ちたときの得点だからといって、このゴールの値打ちが下がることはない。90分間にはどちらの側にも波があって、そこをつかむことが大切なのだから。


タイミングを狂わせるトーキック

 さて、前号に続いて2002年ワールドカップの旅。準決勝ブラジル対トルコの49分に、ロナウドがトーキックでゴールを奪ったところから――。
 記者席のテレビでロナウドのトーキックが映し出されて、あらためて彼のシュートの技術の多彩さとその選択の確かさを思う。彼の右足のトー(つま先)で蹴られたボールは、GKリュシュトゥの予測より何分の1秒か早く飛んできたに違いなく、対応がわずかに遅れた。
 トーキックと言えば、50年前のサッカー・シューズの先端には“甲皮”と称する堅い芯を入れたものが多く、トーキックを好んで使う選手もいた。2歳年長の則武謙(第1回アジア大会日本代表)はトーキックのシュートが得意だったし、朝日新聞の記者でもあった大谷四郎(東大OB)はCKをトーで正確にゴール前へ送り込んでいた。シューズの先端が柔らかくなった時代でも、あのインステップキック・シュートの美しいフォームで知られた、釜本邦茂の日本リーグの100得点目はトーキック。三菱戦で大仁邦彌に絡まれながら、左足のトーで突いたものだ。
 その写真を見るたぴに、「ゴールを生むのはきれいなシュートぱかりではない」という川本泰三(ベルリン・オリンピック代表)の名言を思い出す。今度のロナウドはフットサルの経験もあって、ドリブルからのトーキック・シュートのフォームも美しかった。

(週刊サッカーマガジン2004年6月22号)

↑ このページの先頭に戻る