賀川サッカーライブラリー Home > Stories > >久保の先制ゴール、アレックスのパス 二つの「型」の組み合わせ
久保の先制ゴール、アレックスのパス 二つの「型」の組み合わせ
新幹線と東京の地下鉄を乗り継いでの小旅行、2002年ワールドカップから2年後の埼玉スタジアム行きは、関西の蒸し暑さで汗をかき、冷房のきいた車内で体を冷やされ、記者席でもメーンスタンドの左側から吹いてくる風に体温を奪われ、オールドファンにとってはいささか難行だったが、ピッチの若者たちには快適な環境であったに遣いない。ヨーロッパでの合宿と2試合で選手同士の理解も深まっているようで、それぞれの得意技が組み合わさって7得点が生まれた。
先制点に見た進歩
もちろん“通”からみれば、いくつかの不満もあっただろうし、冷静に見れば、力の下のチームが深く引いて失点を防ぐことに専念する形でなかったから、こちらがゴールを増産するのは当然と言える。
ただし、その当然のことを、そう簡単にはできないのがサッカー。今回はそれを楽々と(見えるほど)やってのけたところが、このチームの前進を示していた。
その第一を1点目に見ると
1)後方のゆっくりとしたパス交換から、
2)ハーフウェー・ライン、左タッチ際で受けたアレックスが、
3)まず外へ一つ運んで、
4)ついで内に入り、そこで
5)相手を一人外へかわす。
6)これで自分のいい体勢を作り、
7)内側へ短くドリブル、
8)ペナルティー・エリア中央部(PKマーク)あたりへ落ちるパスを送った。
9)右後方から左斜めに走り込んだ久保が、それを左足ボレーでとらえ、ダイレクトシュートでGKの左を抜いてゴールした。
左×左の威カ
すでに折に触れて紹介しているように、ストライカーの基本はまずシュートの型を持つこと。久保は左利きで、左足のシュートには一つの型があり、彼自身もここのところ、代表や横浜FMの試合で自分の形に入ったシュートでゴールを重ねて自信を付けている。「その久保がどこへ入ってくれれば彼の得意技を発揮できるか」を計算したアレックスのパスが、この日の先制ゴールにつながった。
左足でボールの下をたたいて浮かせたパス(カットされないため)を狙ったところに落とすため、アレックスは自身がそのキックを最も正確に蹴る体勢を整えた。短いドリブルはそれを確保するためのものだった。彼はこのコースで、中国戟(03年12月)の久保の先制ゴールを演出しているし、清水にいたときもバロンのヘディンクゴールを生んでいる。
二つの得意技の組み合わせは、ほかのゴールをはじめ、この日多くの場面で見られた。こういうプレーがもっと厳しい相手との試合でもできるのが強いチームなのだが、日本代表は、いま、そこへ確実に踏み上がっていこうとしている。
(週刊サッカーマガジン2004年6月29日号)