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シュートカとヨーロッパの底力

ルーニーの図々しさ

 ウェイン・ルーニー(イングランド)にはいささか驚いた。クロアチアとのグループリーグ第2戦でチームの2点自と3点目を決めたのだが、その3点目で相手のディフェンス・ラインの裏スペースヘ走ってドリブルし、GKの左ヘシュートするとき、わずかに右肩を開いて(あるいは引いてというべきか)から蹴った(GKの読みが狂ったはず)。あのディエゴ・マラドーナが86年ワールドカップのイングランド戦で5人抜きゴールのとき、DFを振りきってシュートに入る直前にわずかに左肩を引いたことを思い出した。
 大きくて、速くて、点を取れる若い選手は珍しくはないが、85年10月24日生まれのルーニーが、技術はともかくマラドーナの最盛期のシュート前の落ち着きと図々しさを見せたのだから…。
 セリエA、リーガ・エスパニョーラ、ブンデスリーガを持つイタリア、スペイン、ドイツのサッカー大国が準々決勝に残れなかったのは、いろいろな原因があるだろうが、“自前”のストライカーが少ないからではないか――。
 ストライカーと言えば、グループAでポルトガルがスペインを破った試合の唯一のゴールは、ヌノ・ゴメスがフィーゴからのパスを受けて反転してのシュートだった。パスを出してからのフィーゴの動きも秀逸だが、ヌノ・ゴメスのシュートがDFの足の間を抜けたところがポイントだった。74年ワールドカップ決勝で西ドイツのゲルト・ミュラーが決めたドイツの2点目は、彼が右からのグラウンダーのパスを右足アウトサイドで後方に止め、反転してシュート。DFの足の間を抜けたから、GKにはブラインドだったのだろう。意識して、相手DFの足の間を抜いたのかどうかは別として、良いストライカーはGKが困る(ボールを蹴る瞬間が見えない)タイミンクを肌で覚えているようだ。


チェコのサッカー

 グループDのチェコ対オランダは、大会の中でも好ゲームに入るだろう。ダニューピアン・スタイルの伝統の残るチェコがとても良いチームなのはうれしい。
 それはいまから85年前。大正8年にチェコ軍人と試合をした神戸一中の先輩たちが彼らのショートパスをヒントに搖籃(ようらん)期日本サッカーでの新戦術の旗手となったいきさつを知るからである。
 ネドビェドやポボルスキーといった96年以来の名選手たちはもちろんだが、ブンデスリーガで成功しなかったハインツェがラトビア戦で左足のストレート・シュート、ドイツ戦ではFKを強烈なカーブでカーンが守るゴール・右上スミを破った。良い選手を生み出す彼らの底力を見る思いだった。

(週刊サッカーマガジン2004年7月13日号)

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