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冬を克服して1年中サッカー

 プロである以上、高い技術を見せなければならない。そのためには、トレーニングを積まなければならず、トップチームは「1年中サッカーを」を合言葉に、冬の間も休みなくプレーすることになる。
 12月から室内5人制のトーナメントを各地域で開催、地域大会の勝者が1月の決勝大会に進んでノルウェーチャンピオンを決める。
 2月の初めの2週間は、ノルウェー代表のトレーニング期間にあたり、ノルウェー在住の代表選手が主力となる。彼らは温暖な土地へトレーニング・キャンプに出かける。この南欧でのキャンプには、代表選手以外のプロ選手たちが加わることもある。
 さらにはこの後、温暖な土地(南欧)で、ブルス・カップと呼ばれる大会があり、16チームが参加し最後の決勝だけは3月末か、4月初旬にノルウェーで行なう。温暖な土地は、イタリアであったり、キプロスであったりする。こうした温暖な土地(地中海)へ出かける余裕のないプレーヤーのために、サッカー協会は人工芝を持つ3つの室内サッカー場を91年に相次いで開設し、冬にもプレーできる施設が、いっそう拡充された。

 冬季対策として、とくに寒さの厳しい北部地域は、室内サッカー場を10ヶ所建設計画中で、今年になってさらに前進をみせている。この10ヶ所のインドア施設のうちのひとつは、ピッチの大きさが108×68メートルという、アウトドアの国際規格。残り9つも、68×44メートルだからこれも立派なものだ。
 冬を克服するために、温暖な土地でのトレーニングと試合、室内サッカー場の整備――と、力を注いできた成果は、代表チームのレベルアップにつながり、昨年始まった94ワールドカップ欧州予選に結果となって現れた。

 オランダ、イングランドらと同じ欧州第2組に入ったノルウェーは、92年9月の第1戦でサン・マリノに大勝、そのあとオランダ、再びサン・マリノにも勝ち、イングランドと引き分け、4戦3勝1分けの成績を収めた。今年に入って、4月にトルコを3−1と撃破できたのも、冬のトレーニングのおかげだった。「2000年プロジェクト」の近い目標として、ノルウェー・サッカー協会は1998年のW杯フランス大会を狙いに定めていた。しかし、この調子でいくとそれより4年早く、第1目標を達成しそうだ。

 昨年の代表チームの好成績は、海外でも反響を呼び、イングランドのプレミア・リーグの各クラブは、ノルウェー代表の選手4人と新たに契約した。すでに、スパーズで実績を持つGKトルスベットをはじめ、現在プレミア・リーグ所属は9人。すべてが活躍しているわけではないが、世界一タフなリーグでの彼らの経験は、ノルウェー・サッカーにとっても大きなプラスになるはずだ。
 もともと体格がよく、質実剛健のノルウェー人は、イングランドやドイツのサッカーに馴染みやすい。彼らが若いうちにテクニックを身につければ、先天的に強い身体を持つだけに、ヨーロッパで名のあるプレーヤーに数えられるのは、それほど難しいことではない。

 かつてバイキング時代に、荒海を越えてイギリスやフランスまで船を乗り出したノルウェー人。彼らが、地理的ハンデ、気候的ハンデを克服しサッカーという大海原へ本格的に乗り出すとき、サッカー界にバイキングの時代がやってくるような気がする。
 男女同権を早くから徹底したこの国の女性がサッカーに興味をもち、その強い体を活かして、すでに世界の女子サッカー界では、アメリカやドイツ、スウェーデン、イタリアなどとともにトップグループにあるのも興味深い。女子は、欧州選手権第2位、中国での第1回女子ワールドカップ準優勝の実績を持っているのだ。
 誌面の都合で今回は省略するが、男子と同じように、ノルウェーの女子サッカーの隆盛に、協会の地味ながら計画的な努力があったことはいうまでもない。女子サッカーの歴史の浅い私たちには、この点からも注目したいノルウェーである。


(サッカーダイジェスト 1993年「蹴球その国・人・歩」)

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