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10人ずつの白眉決戦。西ドイツ対オランダ カメルーンに見るアフリカのレベルアップ

アフリカーナの魅力

 90年ワールドカップ・イタリア大会は、決勝の西ドイツ対アルゼンチンがトゲトゲしく、しかもスペクタクルな場面が少なかったために、いささか損をした形だが、何と言ってもセリエAの舞台、イタリアでの大会――それぞれの街の歴史と文化をバックにしたスタジアムは豪華で個性的で、また決勝へ勝ち上がっていく道程には素晴らしい試合があり、思わず声が出るほどの好プレーが随所にあった。
 ファッションの本場、ミラノでの開幕ショーを彩ったモデルの艶やかさの中で、黒人女性の美しさが際立っていたが、大会もまたロジェ・ミラやオマン・ビイクのカメルーンが初戦でアルゼンチンを破り、ベスト8まで進んだ。身体能力は高くても戦術的にはどうか――などという偏見は、民族人種の区別なく、サッカーは練習と経験を重ねればレベルアップするという事実の前に消え去った。12年後、ソウルの開幕戦で不調のフランスがセネガルに敗れ、歴史は繰り返された。


オランダの巨人たち

 88年のEUROでフリット、ライカールト、ファンバステンの強力攻撃陣を持つオランダが優勝し、90年でも注目の的だった。
 ところが彼らACミランの3大スターをはじめ、チーム全体の調子は上がらず、第1ラウンドは3戦3分けで辛うじて第2ラウンド1回戦に進み、西ドイツと対戦した。大会4試合目でようやく立ち直る気配を見せたオランダだったが、ライカールトがフェラーをトリッピングで倒したことに始まり、2度目のファウル、2枚目のイエローカードでともに退場して両チーム10人ずつの戦いとなる。大型チーム同士で11人ではピッチが狭く見えたのだが、一人ずつ少なくなると、ボールを動かすスペースが増え、まことに面白く見応えがあったがランプレーとなれば西ドイツの方が上だった。ブッフバルト(現浦和監督)の攻め上がりからのクロスをクリンスマンが反転シュートで決め、終盤にはブレーメがまたもブッフバルトからのボールを受けて左エリア隅からカーブをかけたシュートで右ポストぎりぎりのところに蹴り込んだ。
 オランダだけでなく、ブラジルもまた第2ラウンド1回戦でアルゼンチンに屈した。バーを直撃する惜しいシュートもあったが、結局はマラドーナの神通力としか言いようがない。唯一のゴールは彼のドリブルから生まれた。86年大会のイングランド戦、ベルギー戦で見せた長いドリブルからのシュートほどではないが、“いま”をつかんでドリブルに入る読みと、テクニックの確かさは生きていた。サッカー大国や強豪が敗退した16強の戦いを、フランスのある雑誌は『象の墓場』という見出しで締めくくった。

(週刊サッカーマガジン2004年12月28日号)

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