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第15回 竹腰重丸(1)サッカーひと筋74年 技術、戦術の大先達“ノコさん”

オウン・ゴールも重要な1点
 
 ゴール(得点)というものは
 どんなレベルのサッカーでも
 重要なものだ。
 ときに、それは、
 ペナルティーエリアに至るまでの
 輝かしいプレーの集積でもあり、
 ときには、個人プレーの
 所業でもある。
 混戦から生まれることも、
 オウン・ゴールも
 PKのゴールもあるが、
 すべてが1点となる。
 ゴールは得点者にも
 それを見る人々にも
 新たな感動の波を呼び起こし
 多くの人を喜ばせ、また、
 多くの人を失望させるものだ。(デニス・ロー)
 
 1964年の欧州フットボーラー・オブ・ザ・イヤー(バロンドール)であり、60年代の優れたゴールゲッター(得点者)であったデニス・ロー(スコットランド)は“記憶に残るゴール”という書き物の中で、こんなふうに言っている。
 名選手がその体験の中から吐き出してくる言葉は味わい深いものだが、このローの一節も私の好きなひとつ。かつてサッカーマガジンの別冊「ストライカーの技術講座」(1985年1月20日発行)に“記憶に残るゴール”という題で執筆したときに紹介したこともある。
 金髪の悪魔と呼ばれ、オーバーヘッドキックやヒールキックナ、アクロバティックなシュートで相手の脅威となったローがわざわざ、オウン・ゴールも得点なのだと言っているところに意味がある。
 
 埼玉でのオウン・ゴールは、蹴り込んだサルミーンには気の毒だが、日本が後半に攻めに出て強圧を続けたところから生まれた。先の北朝鮮との決勝ゴールも開いてGKのフィスティングが福西の足先に来たのが、幸運と言えばそうだし、1次予選のオマーン戦の久保の決勝ゴールも、DFのヘディングのクリアが中村俊輔の足に当たり、そのリバウンドがもう一度DFアイルに当たって、久保の方へ転がったもので、パスがつながったのではない。ボールは丸く、ゆえにどの方向へでも転がる可能性のあるものが久保の方に来るというのは“運”があったのかもしれないが、このときでも、少なくともエリア内にボールが入っていなければ、こういう場面は生まれない。つまりは、ひたむきに攻めようとする姿勢がなければ“運”も生まれてこないのである。

 
オベラートかネッツァーかの話は?

 イラン戦とバーレーン戦の間に、いろいろな電話や問い合わせをいただいた。その中に中盤のリーダー論をかざす人(メディア)もいた。30年前の西ドイツ・ワールドカップ当時の、西ドイツ代表でのオベラードか、ネッツァーかの論争をあげる物知りもいた。
 私自身、74年大会を取材して当時のドイツのメディアの二人についての過熱報道を見ているが、それは日本とまったく違うチーム状況の話。最終ラインに全体に目配りする皇帝ベッケンバウアーがいて、FWにゲルト・ミュラーがいる。ハードタックルのフォクツやドリブラーのグラボウスキーをはじめ、高いレベルの職人芸の持ち主がそろっていた。どれもボールを持てば、1対1は有利になるのが当然というレベルだった。プレーメーカーは一人でいいというのは、そういう中での話。中村と中田英の役割は互いに話し合えば解決する問題であり、第一、いまの日本で、相手がいても、ボールを止めて、キープし、いいパスを出せる選手、いわゆる1対1で常に優位に立って攻撃に働けるプレーヤーはそうそう数は多くない。そのためにも中村、中田はどちらもとても大事な選手なのだが…。


極東大会で初の1位

 さて、連載は今回から竹腰重丸(たけのこし・しげまる)さんに入る予定だった。先ごろJFAから「サッカーの殿堂入り」を発表された。日本サッカー大功労者の一人である。
 明治39年(1906年)生まれ、Jリーグのスタートする13年前、昭和56年(1980年)に亡くなった“ノコさん”の愛称で敬愛された74年の生涯は、まさにサッカーひと筋。
 1930年第9回極東大会で、日本代表がフィリピンに勝ち、中華民国と引き分けて初めて東アジアの1位になった日本代表の首相。チームの牽引車であっただけでなく、その後もサッカーの技術、戦術の指導者としてJFAの中枢にあって、ベルリン・オリンピックの対スウェーデン戦の逆転劇や東京、メキシコの両オリンピックでの日本の光彩にもかかわってきた。
 日本サッカーの揺籃期から、大戦前の第一次発展期の中心となり、大戦後には経済的困難な中で、いちはやく再興を始め、多くの挫折を繰り返しながら60年代後期の第二次発展期へ努力した先達のサッカーへの打ち込みと、技術に対する考えを次回から眺めることにしよう。
 

(週刊サッカーマガジン 2005年4月19日号)

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