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大戦争前の光彩(11)

聖峰を3−0、神宮大会へ

 昭和16年(1941年)8月13日、兵庫県大会で優勝したが、チームは翌日からも練習を続けた。夏の全国大会は、野球もサッカーも「関特演(かん・とく・えん)」(関東特別演習=「大戦争前の光彩(10)」参照)のため中止になったが、もう一つの全国大会、秋の神宮大会は開催される予定だったからだ。
 9月下旬の兵庫予選は、チーム数を少なくして行なわれ、1回戦で甲陽中に4−2で勝ち、決勝は神戸三中に1−0で辛勝した。
 三中はもともと強い相手だったが、僕が最初のシュートをGK正面に蹴って調子づかせたこともあった。
 夏の県大会では甲陽にも三中にも6−0、5−1で勝っていたが、あとから考えればこの得点差は暑い時期の体力差であったかもしれない。
 近畿予選の強敵は京都の聖峰中。朝鮮半島の出身者で固め、2年前の全国大会で決勝まで進んだ実績があった。
 10月5日のダブルヘッダーの午前の試合で、私たちは和歌山中を16−0で破り、明星商を倒した聖峰中と、午後の決勝で顔を合わせた。
 体格の立派な彼らのロングボール攻撃は迫力があり、しばらく押し込まれていたが、ハーフウェー・ラインでボールを受けた僕が相手のセンターディフェンダーとすれ違うように突破して、一直線にゴールへ向かい、シュートを決めてリード。次第に攻勢になって岩谷に対するファウルでもらったPKを決めて2−0、左の竹一からのクロスのこぼれを、僕が右エリア外ゴールラインからゴール前へ浮かせたのを、吉森がヘディングでたたき込み、3点差にした。
 後半も押し込まれたが、DFは大崩れしない。焦った聖峰中のシュートはバーを越え、外へはずれて無失点で済んだ。


大スケールの青山師範

 決めるべきときに点を取った方がサッカーは勝つ。このときが、まさにそれだが、この年の練習重点にFWシュート、慶応大の100本に迫る、一日FW一人70本必須――の効果と言えるだろう。
神宮大会は、この年に結成された「学徒体育振興会」と文部省との共催になり、第12回明治神宮国民体育大会として行なわれた。
 中学の部の規模が前年より縮小され、8地区代表、お寺での「練成合宿」もなく、昔の「全国大会」に戻って師範も同じカテゴリー、朝鮮地区代表も参加していた。
 準決勝で当たった青山師範に、のちの順天堂大名誉教授の太田鉄男先生がいた。彼をはじめ長身揃い、ウイングから逆ウイングへのパスが通るスケールの大きいチームだった。
その攻めに、わがDFはよく耐えたものだ。前半に1点、相手に攻め疲れが出たときに2点を加えた。先制はショートパスでなく、ロングボールが高くバウンドして相手の誰かに当たり僕の前に落ちたのをボレーで蹴ったものだった。
 2点目は左の竹一からのグラウンダーのクロスが左後方へ流れたのをHBの志賀甲が決めた。インステップでボールは彼からまっすぐに飛んで左ポストの内側をかすめて入った。3点目は岩谷。ちょっと気落ちしてスペースのあいたDF陣を2人かわしてのドリブルシュート。見ていてホレボレするような巧さだった。


粘り強い普成中と2−2

 普成中との決勝は神宮競技場、芝生のバックスタンドは在日の人たちで超満員。神戸一中が攻めて点を取ると、メーンスタンドはパチパチと拍手。普成中がボールを奪ってダーン解けると、芝生席は立ち上がって大歓声――。ピッチの上から見るスタンドがまことに対照的だった。
普成中のイレブンは体格は青師ほど大きくはないが、胸も腰もガッシリとしていた。競り合いに粘り強く、パスを出して走ろうとするときに、体を寄せてくるので(オブストラクションのはずなのに笛はなかった)苦労した。
 ドリブルのうまい竹一や岩谷も引っかかり、スピードに自信のある鴇田も遅れ気味の強引なタックルに手を焼いていた。技ありのパスで崩したわけでもなかったが、前半にFKのリバウンドを鴇田がシュートして先制。右からの低いパスのリバウンドを拾ったハーフバックからのパスをもらって、僕が左下隅へ決めて2−0とした。
 後半は相手のラッシュに押し込まれ2点を奪われて2−2。こちらはもう1点が取れず、僕が相手とつぶれて、それを岩谷が拾って生まれたチャンスに、岩谷はすごいシュートを放ったが、これをGKが懸命に防いだ(翌日の新聞の写真はこれだった)。
 次の競技のために延長はなく、両方が1位となった。追い上げた普成中の選手たちは大喜びだったが、朝鮮代表に勝つために苦労してきた僕には、納得のいかない結末だった。
前日の実業団決勝で朝鮮代表の勝利を祝って、観衆がピッチになだれ込んで問題となっただけに、関係者は「内朝融和のために引き分けでよかった」と思ったそうだ。大戦争が1ヶ月後に近付いていたのだが…。


第12回明治神宮国民体育大会(昭和16年11月1日〜3日)

◇1回戦
 青山師範(関東)1−0 志太中(中部)
 神戸一中(近畿)7−0 熊本師範(九州)
 修道中(中四国)3−2 仙台二中(東北)
 普成中(朝鮮) 3−0 函館師範(北海道)

◇準決勝
 神戸一中(近畿)3−0 青山師範(関東)
 普成中(朝鮮) 3−2 修道中(中四国)

◇決勝
 神戸一中(近畿)2−2 普成中(朝鮮)


(週刊サッカーマガジン2000年9月6日号)

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